政治評論家の有馬晴海氏も、「政権延命にはそれしかない」と指摘する。
「岸田内閣は完全に機能不全に陥っている。官邸で政権の危機管理を担当する松野博一・官房長官は、旧統一教会問題への対応や、閣僚不祥事の火消しができていない。役人は言うことを聞かないし、党幹部にも首相の抑えが利かない。自民党内を見渡すと、政権の危機管理を担う手腕があり、党内ににらみを利かせることができるのは、安倍政権の官房長官として数々のスキャンダルを乗り切った菅氏しかいない。
岸田総理が松野氏を官房長官に起用したのは最大派閥の安倍派とのパイプ役にするためだったが、安倍氏の死後、役割は終わった。岸田総理は菅さんに『助けてください』と頭を下げ、三顧の礼をもって『官房長官になってください』と頼むしか生き残る方法はない」
主導権を握られる
現在の岸田首相と菅氏の立場は、1年前とちょうど逆になった。
昨年9月、コロナ失政の批判を浴びて支持率が低下した菅首相(当時)に対し、岸田氏は二階俊博・幹事長(当時)らの「党役員刷新」を掲げて“菅降ろし”の口火を切った。それに対して菅首相は二階氏の更迭方針を決め、内閣改造で事態打開を図ろうとした。
その時、改造の目玉にしようとしたのが、ワクチン担当相として名を上げた麻生派の河野太郎・消費者担当相だった。
しかし、菅氏が河野氏の親分である麻生氏に河野起用の人事を打診したところ、「お前と一緒に沈められねえだろ」と断わられ、望みを断たれた菅氏は翌日、退陣(総裁選不出馬)を表明した。
今度は岸田首相が、自分が引きずり降ろした因縁の相手である菅氏に政権の命運を握られることになった。
因縁はまだある。冒頭の岸田─菅会談の2日後、岸田首相の後見人である麻生氏が菅氏を宴席に招いて会談が持たれたのだ。
「2人がうまくいかないことにじれた麻生さんが間を取り持つために動いた」(前出・岸田派中堅)と見られているが、麻生氏は菅氏に、「岸田をあんたのように沈めないでくれ」と頼んだのだろうか。