実権のない副総理案も
岸田首相の菅氏に対する「入閣アプローチ」は水面下で続けられてきた。最初は今年8月の内閣改造の際、「菅副総理」説が流れた時だ。情報の出所は官邸サイドだ。
「総理が最も信頼する嶋田隆・総理秘書官が『菅さんを副総理に起用すべき』と強く進言した。しかし、当時は支持率が今ほど低くなかったし、総理は政権運営に自信を持っていたからギリギリで起用を躊躇した。もしあの時、入閣を打診していたら菅さんは受けていたかもしれない」(官邸筋)
その後、岸田内閣の支持率が旧統一教会問題批判と安倍晋三・元首相の国葬批判で急落したのに対し、菅氏は国葬での安倍氏への弔辞をきっかけに評価が高まり、最大派閥・安倍派への影響力を増して復権し、岸田首相を脅かす存在となった。
菅氏も最初から政権に協力する気がなかったわけではない。今年10月結成の自民党カーボンニュートラル推進議連では、岸田首相と菅氏がともに「最高顧問」に就任した。この時、興味深い動きがあった。
「菅さんは会合に総理が顔を出すと聞いて、自分も出席するつもりだったが、総理の日程が合わずに欠席となると自分も出席を見合わせた」(菅側近)
ここでもすれ違った。
一方、なかなか決断できなかった岸田首相が「菅入閣」に大きく傾いたのは、11月20日、岸田派の寺田稔・前総務相が辞任した時だという。岸田派議員が明かす。
「総理のもとには、自民党の重鎮や岸田派のベテラン議員などから、『菅さんを副総理にして政権基盤を強化したほうがいい。菅さんを入閣させれば、最大派閥の安倍派も取り込める』という助言が相次いだ。そこで総理は、寺田さんの後任人事で菅さんに副総理兼総務大臣として入閣してもらおうとようやく決心した。総務大臣は菅氏にとってこだわりのあるポストだから受けてくれるかもしれない。総理は心配性だから、もし断わられた場合でも、菅さんに頼んで菅側近の坂井学・前官房副長官を総務大臣に起用するというセカンドプランまで用意したが、調整がうまくいかなかった」
慎重な菅氏は自分を「実権のない副総理」として閣内に取り込もうという岸田首相の魂胆を見抜いて、易々とは乗ってこなかった。
だが、その後も閣僚不祥事が止まらず、岸田首相はどんどん追い詰められている。そこで首相周辺から挙がっている“奥の手”が、菅氏を官房長官に起用することで危機を乗り切ろうというプランだ。
「この際、菅さんを官房長官に迎えるのが最良の手だ。菅官房長官なら問題閣僚をスパッと切って混乱を収拾していたはずだ。副総理は受けてもらえなくても、政権を切り盛りできる官房長官であれば受けてもらえる可能性はある」(岸田派中堅)