スポーツ

81歳の「力道山未亡人」は水道橋のプロレスグッズ店「闘魂SHOP」の店員になっていた【力道山未亡人~元日航CA・田中敬子の数奇な半生~#6】

現在は水道橋の「闘魂SHOP」で働く敬子さん

現在は水道橋の「闘魂SHOP」で働く敬子さん

“日本プロレスの父”力道山が大相撲からプロレスに転向し、日本プロレスを立ち上げてから2023年で70年が経つ。力道山はすぐに国民的スターとなったが、1963年の殺傷事件で、39年間の太く短い生涯を終えた。しかし、力道山を取り巻く物語はこれで終わりではない──。彼には当時、結婚して1年、まだ21歳の妻・敬子がいた。元日本航空CAだった敬子はいま81歳になった。「力道山未亡人」として過ごした60年に及ぶ数奇な半生を、ノンフィクション作家の細田昌志氏が掘り起こしていく。第6話は敬子の「現在」の日常を明らかにする。【連載の第6回。第1回から読む】

 * * *

実は2006年から“看板娘”

 JR水道橋駅西口を出て、東京ドームを背に専修大方向に1分ほど歩くと、新日本プロレスのオフィシャルショップ「闘魂SHOP」はある。

 店内に入ると、10万円相当のIWGPチャンピオンベルトのレプリカをはじめ、Tシャツ、ポスター、バスタオル、ポストカード、カレンダー、応援メガホンが所狭しと並べられ、ビッグマッチのチケット先行販売の日ともなると、行列は店を突き抜けて歩道にまで達する。店の奥に設えられたレジには、30代と思しき男性スタッフの傍らに、新日本プロレスのジャンパーを着た白髪の女性が立っていた。田中敬子である。

 筆者は彼女が隠棲しているどころか、闘魂SHOPで働いていることを取材の過程で知った。出勤は月に一度シフトが決められ、週3日、月10日以上は出勤している。2022年12月21日のこの日も、午後1時~5時までの4時間、孫のような若い店員と並んでレジに立って接客をしたり、商品棚を見て回ったりしていた。

「別にたいしたお金になんかならないのよ。ただね、家にずっといたってすることもないし、毎日飲み歩くわけにもいかないでしょう。だから、こうして真っ当な社会人としての生活もしておかないと」

 そう言って笑っている横で、小学生らしき少年がレジの前に立った。手にはオカダカズチカのTシャツを持っている。すると敬子は「はい、いらっしゃいませ」と慣れた手つきでTシャツを黒のビニール袋に詰めて、少年から金を受け取り、すっと釣りを渡した。筆者が眼を見開いていると、「まあ一応、これくらいのことは出来るんです」と悪戯そうに言った。少年はこの女性店員が、日本のプロレスの実質的な創作者である力道山の夫人だったことをおそらく認識していないだろうし、もしかしたら、力道山自体、知らないのかもしれない。

「多分、若い人は私のこともそうだけど、主人のことも知らないかもしれません。名前くらいは聞いたことがあるのかもしれないけど……。今は棚橋(弘至)君とかオカダ君とか、若い選手のファンって本当に多いのよねえ」

 しばらく立ち話をしていると「敬子さん」と初老の女性が声をかけてきた。

「あら、お久しぶり」

「今日、こっちまでたまたま足を延ばしたんで、敬子さんいらっしゃるかなって思って来たんです。よかったわ、会えて」

「ありがとうございます。今週はね、土曜24日と、年内は26日が最後」

 女性は、敬子としばし歓談して程なく去っていった。

「ああいう方もいらっしゃるの。私がいるときに来て声をかけて下さって。ただ、昔の方が多かったかな」

関連記事

トピックス

野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
8月20日・神戸市のマンションで女性が刺殺される事件が発生した(右/時事通信フォト)
《神戸市・24歳女性刺殺》「エレベーターの前に血溜まり、女性の靴が片方だけ…」オートロックを突破し数分で逃走、片山恵さん(24)を襲った悲劇の“緊迫の一部始終”
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
決勝の相手は智弁和歌山。奇しくも当時のキャプテンは中谷仁で、現在、母校の監督をしている点でも両者は共通する
1997年夏の甲子園で820球を投げた平安・川口知哉 プロ入り後の不調について「あの夏の代償はまったくなかった。自分に実力がなかっただけ」
週刊ポスト
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン
中居正広氏の騒動はどこに帰着するのか
《中居正広氏のトラブル事案はなぜ刑事事件にならないのか》示談内容に「刑事告訴しない」条項が盛り込まれている可能性も 示談破棄なら状況変化も
週刊ポスト
離婚を発表した加藤ローサと松井大輔(右/Instagramより)
「ママがやってよ」が嫌いな言葉…加藤ローサ(40)、夫・松井大輔氏(44)に尽くし続けた背景に母が伝えていた“人生失敗の3大要素”
NEWSポストセブン
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
【観光客が熊に餌を…】羅臼岳クマ事故でべテランハンターが指摘する“過酷すぎる駆除活動”「日当8000円、労災もなし、人のためでも限界」
NEWSポストセブン
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《金メダリスト・北島康介に不倫報道》「店内でも暗黙のウワサに…」 “小芝風花似”ホステスと逢瀬を重ねた“銀座の高級老舗クラブ”の正体「超一流が集まるお堅い店」
NEWSポストセブン
夏レジャーを普通に楽しんでほしいのが地域住民の願い(イメージ)
《各地の海辺が”行為”のための出会いの場に》近隣住民「男性同士で雑木林を分け行って…」 「本当に困ってんの、こっちは」ドローンで盗撮しようとする悪趣味な人たちも出現
NEWSポストセブン