12月15日、力道山の60回忌に墓前に手を合わせる田中敬子

12月15日、力道山の60回忌に墓前に手を合わせる田中敬子

地元の顔役への“弾除け”に!?

 田中敬子が闘魂SHOPで働き始めたのは、2006年のことである。力道山が生前手掛けた幾多の事業の一つに旅行代理店があった。その「リキ観光」の元社員で、力道山の死後「力道山OB会」の事務局長として、アントニオ猪木の新日本プロレス、ジャイアント馬場の全日本プロレスの両者に睨みを利かせた岩澤敏雄が、店舗の経営権を買い取ったことに端を発する。

 2005年、大阪のゲーム会社「ユークス」が、経営難にあえぐ新日本プロレスを買収すると、公式グッズの直営店である闘魂SHOPの経営権も競売にかけられた。そのタイミングで権利を買い取った岩澤は「力道山OB会でショップを切り盛りしよう」「だったら敬子さんに店頭に立ってもらおう」と閃いた。「力道山未亡人」として事あるごとにメディアに登場する敬子のことは、古くからのファンには認知されており、新しいファンに「力道山」をアピールする機会になると考えたのだ。2017年に他界した岩澤は、生前、多くの関係者に慕われたことで知られる。

「岩澤さんは非常に面倒見のいい方でした。人格者ですが、陰の実力者みたいな面もありました。岩澤さんはずっと前から、水道橋界隈のプロレスショップを随分気に掛けていて、例えば、別の店に生前の力道山のパスポートが陳列させたり、力道山関連のお宝グッズを仕入れたり、そういう采配を揮ってもいたんです。力道山という存在を風化させないためでしょう」(昭和の格闘技やプロレス専門家で『押忍とは何か?』の著者、水道橋で「ファイティングカフェ・コロッセオ」を経営していた大森敏範)

 田中敬子自身はこう回想する。

「岩澤さんが『闘魂SHOPの経営をやることにしたんです』って言うから『そうですか、何でも協力させてもらいますよ』って言ったら『本当ですか、じゃあ、看板娘になって下さい!』って。ずっこけそうになったわよ。でも、それから16年も経つのね。この分だと20年もすぐかも」

 以前より筆者は、「水道橋で商売をするのはなかなか難しい」という話を聞いていた。「昔ながらの、いわゆる“土地の顔役”に挨拶がないと、商売がやりにくい」といった類の話である。そこで「力道山の未亡人である敬子が店頭に立つことで、その手の余計な争いを未然に防ぐことになる」という役割も実はあったのかもしれない。その推論を敬子自身にぶつけると、「いやいや、私じゃ何の弾除けにもなりませんって」と否定した。

「トラブルも揉め事も全然なかったです。だって、時代が違うもの。それより、私にとっては、ファンの移り変わりが興味深かった。やっぱり、プロレスが繁栄するきっかけは子供。子供が夢中になると、自然と親も観るようになる。それで、気が付いたら親の方が夢中になるっていうのが、ビジネスとして理想でしょう。お店にいると、それが理解出来ます。小さい子供がたくさん来ると、『あ、今は会場にお客さんが入ってるんだな』ってことがわかる」

 そして、こうも言う。

「主人のプロレスがブームになったのも、それは当時の国民の敗戦意識とかいろいろ理由はあったんだろうけど、お腹を空かせた子供が『力道山だ』って夢中になったのは大きかったと思うんです。子供というのは、いつの時代も、何においても希望ですよ」

 その田中敬子が「ちょっと、お見せしたいものがあって」と言って、鞄から3冊の古い日記帳を取り出した。

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