ゼロコロナ政策を撤廃した習近平氏(写真=中国通信/時事)
上海では新型コロナに感染した男性が肺炎で死亡し、治療を担当した医師がSNSに悲痛な叫びを投稿した。
〈死亡診断書を書く際、死因は重症の肺炎とした。原因として新型コロナ感染と書いたところ、翌日に予防保健科から電話が来て、死亡原因を変更してほしいと求められた。「どうして変更するんですか?」と聞いたら、彼らも答えられなかった。私はただ「なぜ?」と問いたい。なぜ新型コロナによる死亡と書けないのか?〉
中国当局はSNSでコロナに関する投稿をしたアカウントを凍結しているが、それでも医師たちの叫びが溢れ出すほど現場は混乱に見舞われている。その中国でいま懸念されているのが、ウイルスのさらなる変異だ。
万全な水際対策はない
ウイルスは細菌と違って自力で増殖できず、人間や動物などの細胞内に侵入して自己を複製して増殖する。その際、遺伝子のコピーを何度も繰り返すうちにコピーミスが起こる。このミスが「変異」と呼ばれるものだ。
また、新型コロナウイルスは、スパイクたんぱくというトゲの部分にコピーミスが起きると、感染力や毒性といった性質が変わる。実際に新型コロナは武漢株からオミクロン株まで変異し、そのたびに感染率や重症化率、致死率などが変化した。渡航医学に詳しい関西福祉大学教授で医師の勝田吉彰氏が指摘する。
「オミクロンが他の系統に変異するメカニズムには2つあります。
1つは何らかの病気で免疫力が落ちている人間が感染し、通常のようにウイルスを排出できず、体内で偶発的に新しいウイルスが誕生する可能性です。初期のオミクロンもそうして発生しています。
もう1つは、人間から身近な動物に感染し、その動物のなかで変異が起こり、また人間に戻るパターンです」
こうしたメカニズムは各国に共通する。ただ、中国において注意すべきは感染者数の多さだ。
「単純な話、感染者が多いほどウイルスが自己を複製する回数が多くなり、コピーミスが起きやすい。感染者が100人の国と1億人の国では当然、1億人のほうが高確率でコピーミスが生まれるでしょう。実際、デルタ株はインドで感染爆発した際に誕生した変異株です。中国はワクチン接種と自然感染の“ハイブリッド免疫”が少なく、今後も感染が拡大する可能性が高い。その際、オミクロン系統と違う特性を持った変異株が生まれるかもしれません」(勝田氏)
オミクロンは感染力こそ強く、毒性は弱いとされるが、新たな変異株は再び毒性が増す可能性がある。勝田氏が続ける。
「オミクロンとはまったく違う変異株が現われたら、毒性が強くなっている可能性は否定できません」