【受賞者の言葉】
比嘉健二氏「唯一自分が誇れる雑誌だった」
立派な賞や他人からの評価とは無縁な人生だった。
雑誌の編集者として今年で42年を迎えたが、出だしが『S&Mスナイパー』でその後はエロ本に犯罪、反社会的勢力、胡散臭いゴシップ系の実話誌をこの世に垂れ流し、時には世間から大きな批判も浴びた。ただ、今回テーマに書いた『ティーンズロード』だけは違う。
唯一自分が誇れる雑誌だ。メインコンセプトは“女暴走族”“不良少女に少年”。いわゆる世間から「ヤンキー」と煙たがれる存在だ。そのどこが誇れるんだと世間一般の人たちは思うだろう。この雑誌はそんなハミ出した少年少女にとって心を許せる唯一の“仲間”なのだ。
レディースと呼ばれた女暴走族に彼女たちが居場所を求めたのには何らかの理由があり、そこから何かを経験し学ぶこともある。大人が「あーだこうだ」心配しなくても彼らは“地元”で自然に独り立ちをする。
もちろんそうではなく世間から大きく逸脱してしまう少年少女もいる。すべてを理解し救ってあげることは不可能だし、そこが商業雑誌の役目ではないが、関わっていた約5年間は彼らとほぼ一心同体、全身全霊を込めて向き合った。そこに誇りが持てたのだ。
そんな『ティーンズロード』のことを書いてみようと思った最大の理由は当時のレディースたちと30年の時を経ても交流があることだった。中でも埼玉のレディース「紫優嬢」元総長のすえこさんと千葉のレディースのじゅんこさんは現在多くのメディアでもとりあげられるほど社会活動で貢献している。特攻服で出会った少女ははるか遠い立派な存在になってしまった。
二人から受賞の祝福が短いメールで届いた時、肩の荷が少し軽くなった不思議な心地よさを感じた。
【プロフィール】
比嘉健二(ひが・けんじ)/1956年、東京都生まれ。1982年にミリオン出版に入社。『S&Mスナイパー』などの編集を経て、『ティーンズロード』『GON!』などを立ち上げる。現在は編集プロダクション『V1パブリッシング』代表。
※週刊ポスト2023年1月27日号