日本人のヘルスリテラシーと各国の点数
医師と患者の“感覚のズレ”も影響する。外科医として長年最前線で治療にあたってきた東京医療保健大学副学長の小西敏郎さんが指摘する。
「外科医として勤務していた時代を振り返ると、私を含め多くの医師が患者を常に気に掛けられるような心理状態ではなかったということです。特に大きな病院では、医師は24時間、急変する可能性のある患者を抱えています。中でも手術の前後は気を抜けません。そのため、命にかかわる病気ではない患者をケアする余裕がない状況が当たり前になってしまう。病状の重い軽いにかかわらず、どんな患者さんも医療に対する不安を抱えていることは理解していますが、どうしても溝が生まれてしまうのです」
患者が医師に「本音」を言わないことも溝を深める。小西さんは、患者から掛けられる「ありがとう」という言葉を心の支えにしていたと話す。助からなかったときでさえ、「よくやってくださいました」と言ってくれる家族も多かったそうだ。
「ところが最近、友人や知人と話していると、医師に不満を持っている人は意外と多いことがわかったんです。ですから本当は私に感謝してくださった患者さんの倍以上、不満を抱いていた人がいたはずです。実際、看護師から『患者さんやご家族は治療に疑問や不満があるようですよ』と言われることもあり、ベッドまで行ってみるけれど、ニコニコして何も言わないんです。だから医師は気がつかない。
不満や不安があれば、放置しないでほしい。コミュニケーションを取りつつしっかり伝えることが、患者はもちろん、医師のためにもなります」(小西さん)
診察室で口をつぐんだ結果、最悪の事態が引き起こされる可能性もある。精神科医の和田秀樹さんが言う。
「医師の世界は権威主義。自分よりも“下”の人間が従うのは当然だと思い込んでいる医師が少なくありません。しかし、医師の言うことをうのみにした結果、命を落とすケースもある。2007~2014年にかけて、群馬大学病院で同じ執刀医から手術を受けた患者が30人亡くなるという医療事故があったのを覚えているでしょうか。この事実が長期間にわたって表に出なかったのは、29人が何も訴えなかったからです。だからおかしいと思ったら声をあげて、意見を伝えるべきです」
※女性セブン2023年2月2日号