2020年に調教師試験に合格した名手・蛯名正義氏
これは騎手の健康という観点からの措置ですが、馬にとってはどうなのかという議論もありました。レースでのスピードは変わらないのに、背負う重さが増えれば負担になって故障しやすくなるのではないかという意見があるのは当然のことですよね。パワーやスタミナを競うイメージが強いヨーロッパではいいかもしれないけれど、スピードが重視されている日本競馬ではどうなのか……。「たかが1キロぐらい」と思われるかもしれませんが、ハンデ戦などは0.5キロ単位で馬の力量を調整します。なにより「58キロ」と聞くと、ちょっと重いな、というイメージがあります。
もっとも斤量と故障に因果関係があるとは言い切れません。脚元のケアなどの技術は昔よりは向上しており、全体的に見ても故障は少なくなっています。負担重量の増加は日本馬が外国でさらに結果を出すためには必要なことなのでしょう。一ホースマンとしては、この措置が馬にとってマイナスにならないことを願うばかりです。
【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。
※週刊ポスト2023年2月3日号