歴史は繰り返す?
ただ、指導者としての千代の富士の実力はたしかなものだったと証言する関係者は少なくない。ある親方は言う。
「大卒や外国出身者の弟子を取らず、高卒や中卒の力士を一から育てた。厳しい指導で知られ、“昭和の大横綱”と呼ばれた大鵬、北の湖、千代の富士の3人のうち、弟子の育成に成功したのは千代の富士だけ。大関・千代大海をはじめ、多くの関取を誕生させた。稽古はビデオ撮影して、所用で稽古に出られない時は、帰宅してからチェックしていた。弟子の一人ひとりとの連絡ノートは有名で、親方が必ず一言書いて返していたそうです。部屋の関取が全員勝った日は焼き肉が食卓に並び、部屋の関係者で一丸となって所属力士を応援するなど、弟子を育てる能力や体制づくりには定評がありました」
2016年7月に亡くなったあと、九重部屋を継いだのは元大関・千代大海だ。継承時は墨田区石原の部屋を使っていたが、2021年2月に葛飾区奥戸に移転している。
「本来は国民栄誉賞まで受賞した大横綱が稽古をつけていた部屋を、愛弟子としてそのまま継いでいくべきなのでしょうが、それができないのが相撲界の病理。結局、北の富士から千代の富士へと部屋の土地・建物が渡らなかったのと同様に、千代の富士から千代大海にも継がれることはなかった。もともとの九重部屋の土地・建物を購入できなかった千代大海は、葛飾区の土地を借りるかたちにしてその上に部屋を建てたのです」(ベテラン記者)
歴史は繰り返されるといったところだろうか。一代年寄襲名を辞退してまで建てた「九重部屋」はかくして、ちゃんこ店へと転じることとなった。