――原作や脚本を読んでのインスピレーションだけでなく、解釈ということでもあるわけですね。
梶浦:そうですね。一番大事なのは、見終わった人の気持ちにちゃんと寄り添えるかどうかだけですから。たとえアップテンポの曲だろうと静かな曲だろうと、バラードだろうとロックだろうと、速いテクノだろうと、案外何でもそこにおさまるんです。結局はその物語を読み終わった人――その基本は自分ですよね――そのときの自分の気持ちって、きっと作品ファンの方の気持ちに近いと思うので、そのときの自分の気持ちにちゃんと寄り添うものを作れれば、音楽のジャンル自体はこだわりすぎる必要はないと思っています。
そうすることがきっと、物語を見終えたときにこういう音楽を聴きたいっていう人の気持ちに寄り添えるということだと思うんです。一番のサンプルは自分なので、自分が、何を聴きたいかとか、このシーンでどんな音楽が流れたら、自分はもっと感動するだろうとか、もしくは、この静かな時間にどういうふうに寄り添うかだとか――。
あくまで一読者としての自分自身から出てくる感情に素直に作れば、曲もそんなには外さないなというのはありますね。「一読者、一観客としての自分」を忘れないことが一番大事かなと常に思ってます。
【プロフィール】
梶浦由記(かじうら・ゆき)/作詞・作曲・編曲を手掛けるマルチ音楽コンポーザー。1993年「See-Saw」のコンポーザー兼キーボーディストとしてデビュー。現在はアニメを中心とした劇伴音楽を手掛け、「ソードアート・オンライン」、「魔法少女まどか☆マギカ」、「鬼滅の刃」等、数々の話題作を担当。
【聞き手・文】
春日太一(かすが・たいち)/1977年生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家。
※週刊ポスト2023年3月3日号