スポーツ

“悪童”はなぜ変貌したか ダルビッシュ有、WBC宮崎合宿で語っていた「いつ野球が最後の日になっても」

“自由奔放なエース”はいかにして「侍の牽引役」となったのか

“自由奔放なエース”はいかにして「侍の牽引役」となったのか

 WBC侍ジャパンの宮崎合宿全日程が終了。その「中心」にいたのは、紛れもなくダルビッシュ有(36)だった。現地取材したノンフィクションライター・柳川悠二氏が、ダルがもたらした「熱狂」をレポートする。【前後編の前編】

 * * *
 5回目となるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に挑む侍ジャパンの宮崎合宿はすなわち、「ダルビッシュ狂騒曲」だった。

 帰国の直前に、サンディエゴ・パドレスと6年約142億円で再契約したダルビッシュ有が足を運ぶところには野球ファンだけでなく、常に侍戦士たちが群がっていた。そして、基本的には毎日、報道陣の前に立って自身の野球観や技術論を展開し、ファンや後輩へのメッセージを発信し続けた。

 若き日は自由奔放にして天衣無縫。取材者のひとりとしては、高校時代より常に緊張が走るタイプの野球選手だった。ところが、北海道日本ハムからメジャーへ渡り、36歳となった現在はアスリートの鑑のような取材対応だ。なぜすべての人間を魅了するトップアスリートへと変貌したのか──宮崎の地で残したダル語録から紐解いていく。

 宮崎合宿がスタートした2月17日、河津桜が満開に咲いたひなたサンマリンスタジアム宮崎のサブグラウンドで行なわれた投手陣の練習に、ダルビッシュ有の姿はなかった。時差ボケが残るために、室内に移動してひとり、入念にストレッチをしていた。

「これまで積み重ねた経験から、自分は朝起きた時、ベッドに寝転がった感覚でその日の体調がわかる。今日の状態だと長めにストレッチをしなければいけないと思ったので、吉井さん(理人、投手コーチ)にお願いして個人でやりました」

若手にも「同級生ぐらいの感覚で」

すべての人間を魅了するトップアスリートへと変貌した

すべての人間を魅了するトップアスリートへと変貌した

 しばらくして投手陣に合流すると、待ち侘びていたファンが叫声をあげた。グラウンドを囲うネットに人が幾重にもはりつき、スタッフが慌てて警備員を増員したほどだった。

 午後には佐々木朗希(千葉ロッテ)と宮城大弥(オリックス)を引き連れ、室内練習場である木の花ドームへ。予定にない行動で、到着時にダルを待ち受けたファンはたったの3人だった。彼らほどのラッキーはない。全員のサインの求めに応じて中に入ると、15歳下の若き侍ふたりにダル塾を開講した。

「スライダーの苦手意識なんて持たなくていいよ」

 令和の怪物の右腕をさすりボールの握りを指南しながら、プロ入り後、ほとんどスライダーを投じてこなかった佐々木を勇気づけていた。

「今のところ、(若手からは)警戒されていると思うので(笑)、どんどん質問してほしい。アメリカ生活が長くなった自分にも日本の選手が今、どんなルーティンで投げるのかなど、ものすごく興味があるし、勉強になる。(チーム最年長ではあるが)僕は同級生ぐらいの感覚で彼らと接しています」

 ダルの一挙手一投足は即座にネットニュースとなる。帰りのバスに乗り込む頃には、木の花ドームの玄関口は左右に人垣ができあがっていた。最初は右側のファンにサインし、頃合いを見て左側へ。すべての要望に応じられないからこそ、こうした小さな配慮が願いの叶わなかったファンを納得させるのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

手指のこわばりなど体調不安を抱えられている(5月、奈良県奈良市
美智子さま「皇位継承問題に口出し」報道の波紋 女性皇族を巡る議論に水を差す結果に雅子さまは静かにお怒りか
女性セブン
ちあきなおみ、デビュー55周年で全シングル&アルバム楽曲がサブスク解禁 元マネジャー「ファンの声が彼女の心を動かした」
ちあきなおみ、デビュー55周年で全シングル&アルバム楽曲がサブスク解禁 元マネジャー「ファンの声が彼女の心を動かした」
女性セブン
『EXPO 2025 大阪・関西万博』のプロデューサーも務める小橋賢児さん
《人気絶頂で姿を消した俳優・小橋賢児の現在》「すべてが嘘のように感じて」“新聞配達”“彼女からの三行半”引きこもり生活でわかったこと
NEWSポストセブン
「マッコリお兄さん」というあだ名だった瀬川容疑者
《川口・タクシー運転手銃撃》68歳容疑者のあだ名は「マッコリお兄さん」韓国パブで“豪遊”も恐れられていた「凶暴な性格」
NEWSポストセブン
自転車の違反走行の取締りはたびたび実施されてきた。警察官に警告を受ける男性。2011年(イメージ、時事通信フォト)
「青切符」導入決定で自転車取締りが強化 歓迎の声がある一方で「ママチャリで車道は怖い」
NEWSポストセブン
民主党政権交代直後の政権で官房長官を務めた平野博文氏
【「年間約12億円」官房機密費の謎】平野博文・元官房長官 民主党政権でも使途が公開できなかった理由「自分なりに使い道の検証ができなかった」
週刊ポスト
NEWS7から姿を消した川崎アナ
《局内結婚報道も》NHK“エース候補”女子アナが「ニュース7」から姿を消した真相「社内トラブルで心が折れた」夫婦揃って“番組降板”の理由
NEWSポストセブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【厳戒態勢】「組長がついた餅を我先に口に」「樽酒は愛知の有名蔵元」六代目山口組機関紙でわかった「ハイブランド餅つき」の全容
NEWSポストセブン
今シーズンから4人体制に
《ロコ・ソラーレの功労者メンバーが電撃脱退》五輪メダル獲得に貢献のカーリング娘がチームを去った背景
NEWSポストセブン
菅原一秀(首相官邸公式サイトより)と岡安弥生(セント・フォース公式サイトより)
《室井佑月はタワマンから家賃5万円ボロビルに》「政治家の妻になると仕事が激減する」で菅原一秀前議員と結婚した岡安弥生アナはどうなる?
NEWSポストセブン
真美子夫人とデコピンが観戦するためか
大谷翔平、巨額契約に盛り込まれた「ドジャースタジアムのスイートルーム1室確保」の条件、真美子夫人とデコピンが観戦するためか
女性セブン
(写真/PIXTA)
【脳卒中】“最善のリハビリ”のために必要なこと「時間との勝負」「急性期病院から回復期病院へのスームズな移行」
女性セブン