加計学園の加計孝太郎理事長らとバーベキュー(写真は2013年/共同通信社)
「安倍さんのトリック」
これに対して、前川氏は安倍氏の主張に全面的に反論する。
「回顧録を読んで感じるのは、安倍さんは自分の都合のいいところだけ切り取ったなあという印象です。あの方にとってはよくあるパターンですね。事実関係について言えば、『全く関与していないことは明白でしょう』と、全く逆のことが書いてあった。安倍さんは、完全に関与していたと私は思いますね。
安倍さんが回顧録で獣医学部新設認可に自分が関与していない理由として挙げているのは、『後に明らかになった文書には“国家戦略特区会議決定という形にすれば、総理が議長なので、総理からの指示に見える”と書いてありました。つまり私の意向ではないのですよ』という部分です。
『総理からの指示に見える』というのは文科省の側でつくった文書に出てくる言葉ですが、これは、文科省が内閣府から言われた言葉なんですよ。文科省の当時の課長が、藤原豊さんという内閣府の審議官から言われた言葉を書いたんです。当時の文科省としては、筋の通らない話なので、獣医学部新設には渋っていた。最終的に文科省の責任になるので。
それは当時大臣だった松野博一さんも渋っていた。獣医学部の新設は自民党内にも反対があって、そのトップは麻生太郎さんだった。麻生さんは獣医師会の支持を得ている人なので。この案件は、総理の意向を取るのか、副総理の意向を取るのかという話だったんですよ。
このように文科省が嫌がっているということは、内閣府も十分承知していた。そういう中で、この言葉が出てきたんです。文科省は嫌かもしれないけれど、総理の指示なんだから仕方ないでしょ、という意味です。でも内閣府の審議官が『総理の指示』という明確な言葉を出すわけにはいかない。だから『総理の指示に見えるでしょ』という言い回しをしたわけです。
国家戦略特区の議長は総理ですから、国家戦略特区の決定は、総理の指示にできるじゃないか。そうすれば文科省の責任じゃないでしょう、と。文科省の責任を回避する理屈づけのやりとりを文書に残していた。だから安倍さんが文書の表現の一部を切り取って、『つまり私の意向ではないのですよ』と自分が関与していないかのように説明しているのは、トリックです」
前川氏はさらに、安倍氏が獣医学部認可に直接、かかわっていたことをこう指摘する。
「『総理の意向』はいろんなルートで文科省に伝わってきているんです。私は文部科学事務次官在任中、当時の首相補佐官の和泉洋人さんに呼びつけられて、行ったら、『総理は言えないから私の口から言う』とおっしゃった。これは証拠文書は残っていませんが、私はそう聞いた。2016年9月です。
他のルートもあって、内閣府の藤原審議官から、当時の文科省の担当課長が言われた。そのメモには『総理のご意向と聞いている』と書いてある。藤原審議官も伝聞の形で伝えているんですね。もう一つ直接的な言い方だったのが、当時の官房副長官の萩生田光一さんです。萩生田さんから当時の文科省高等教育局長が言われた。これも文書に残っている。
それによれば、『総理は「平成30年(2018年)4月開学」とおしりを切っていた』と書いてあった。平成30年4月に必ず開学するようにしろと安倍総理が語っていたことを、萩生田さんが語っていた。
このようにいろんなルートで文科省に安倍総理の意向は伝わっていたんだけれど、安倍総理の『指示』というのはないんです。結局、指示を出していたら完全に安倍さんの責任になるんですね。
意向は伝わってくるんだけど、指示は出ていない。だから『最後は文科省が決めたんでしょ』と文科省の責任にされてしまう。そういうのに対して多くの人が、『指示に見えるでしょ。そうすれば文科省の責任にならないじゃない』と何人もが伝えてきたと。こういう文脈で出てきた言葉なんですね」