自宅で飼っている愛犬とのツーショット(撮影/藤岡雅樹)
設定も展開も「全部捨てる」と決意
折しも連載開始から1年が経った頃、社会はコロナ禍に入った。誰もがこれまでにない鬱屈とした生活を経験することとなったが、鳥飼さんも作品作りに悩み「勢いを失っていった」(鳥飼さん)苦しい状況だった。だが岐路に立たされた時、ガツンと頭を打たれるような出来事があったという。
「作品から読者が離れ始めていることも感じていましたが、作品の部数が私の漫画家人生でも最低に近い部数に下がってしまったんです。結婚生活も上手くいっていなかったし、何もかも嫌になりかけたのですが、その時“このまま漫画までダメになったら人生終わりだぞ”と我に返った。とはいえもう頭の中がグチャグチャだから、どこから正直に漫画に向き合えていなかったのかというところから分からなくなっていた。
それをイチから見つめ直しそうと決意しました。それで、これは本当にキツかったんですが元々用意していたキャラクターの設定や物語の展開もすべて捨てたんです。私はしょうもない人間だけど、根は正直者なタイプだと思う。まずそういう自分らしさを出せるようにすることと、キリのいい10巻でスパッと終わらせることを決めました」
そこからは「自分の作品じゃないみたい」と思うほどテンポ良く、スリリングな展開を描ききることができた。
「自分で言うのもなんですが、毎回ネームができた時に『面白いやん!』と感動していました(笑)。私自身が必死だったからか、理津子が“剥き出し”になっていったのが良かった。それまで想定していた展開は捨てて、理屈みたいなものも大分無視してしまったのですが、自分が面白いと思える話にできたのが一番楽しかったですね。雑誌で連載を読み続けてくれている読者の方がSNSで“展開が変わってきた”と書いてくださっているのを見つけた時は手応えを感じました。
単行本でいうと7巻に収録されている辺りからなのですが、喧嘩もした編集者が帯に『鳥飼茜、大爆発。』とデカデカとポップな書体で書いてきたんです。それまではオシャレな帯だったのに(笑)。彼女なりに私の意思表明に全力で応えてくれたと思った。それで私も発奮したし、自分でもこれから物語がどうなってしまうのかワクワクしてきた。そこからは納得する最後が描けました。今さらですが、もし連載途中で作品から離れてしまった読者の方が戻ってきてくれたら本当に嬉しいです」