帯に「鳥飼茜、大爆発。」と書かれた単行本7巻(撮影/藤岡雅樹)
私は「薄っぺらい女」だった
怒濤の勢いでクライマックスへと進んでいったが、同時にプライベートでも一つの節目を迎えていた。2018年に漫画家の浅野いにお氏と再婚し、人気漫画家同士の結婚や「別居婚」というスタイルがメディアでも注目されたが、2022年春に離婚。様々なことに悩みながらも決断し、前に進んでいくなかで段々と自分自身の“本当の姿”が見えてきたと語る。
「自分が描く漫画のキャラクターはもちろん、私自身も“厚み”や“深み”のある人間だと信じたかったのですが、改めて自分を見つめ直したら驚くほど薄っぺらい女だと気づいたんです(笑)。結婚したことがネットニュースになったり、テレビに特集されたりするうちに世間の目やイメージに執着するようになっていた。そのために、自分が受け容れがたい相手の意向も反発し続ければ良かったのに分かったフリをして呑みこんでしまった。
離婚してから“結婚生活どうだった?”と聞かれた時は、“私には分不相応だった”と答えているんです。どう不相応かは想像にお任せしますが(笑)、実態のない“虚像”に囚われて生活が歪んでしまってた。作家同士の結婚なんて言われて格好良い生活をしている感じを頑張って演出しましたが、実際には私自身の求める生活は結構普通で、作家っぽい奇抜さとかはあまりないんですよね。離婚後は遅ればせながら健康的になったし、家族とか従姉妹とかによく電話しています。結婚してた4年間はなんか異空間のようで、なぜか自分から実家の家族を避けてるようなとこがあったんですけど。そういう地に足着いた普通な感覚が戻ってきました」
自分らしさを取り戻したと語る鳥飼さんだが、節目の作品も終えたいま、今後の執筆活動についてはどう考えているのか。
「いまはホンマに何も考えられないですね(笑)。終わる前はテンポの早いエンタメを書いてみたいとか、いつも“エグい”“胸糞悪い“とか言われることが多いんで、全く刺さらない漫画を描いて裏切ってみようとか考えてみたりもしました。あとはいま息子が14歳でスゴく面白いんですよ。だからいつもみたいに大人向けの作品じゃなくて、自分がいない世界、それこそ若い子に向けたメッセージ性のある作品なんかにも興味があります」
まだ次回作については未定というがファンはきっと次に何を描くかを待っているだろう。吹っ切れたと笑う自然体な姿からどんな作品が生み出されるのか、期待して待ちたい。