新藤兼人監督のオーディションでの睨むような目つきを振り返った原田大二郎さん (撮影/大山克明)
写真選考で原田さんは落とされ、最終の8人には残っていなかった。ただ、新藤兼人監督はその時はまだ最終決定を下さず、一度、その選考をご破算にして、改めてこれぞと思う役者を探していたのだという。
そんな時、『エロス+虐殺』で主役を張っている原田大二郎という面白い役者がいる、という噂を聞きつけた新藤監督が本人を呼び出したわけだ。2人きりの面接は事実上の最終オーディションだった。
「ただね、普通のオーディションじゃないの。新藤さんって、喋らないんですよ。ずっとこちらを睨みつけているだけ。僕もあの頃は本当に向こうっ気が強かったから“睨めっこなら負けねえぞ”って、新藤さんをずっと睨み返していたんです。時々、『先生は広島ですか。僕は山口ですから近いんですね』くらいの言葉は交わすんです。相手を睨みつけながらね。
どんな話をしたのかはほとんど覚えていない。1時間くらいしてから『これが台本じゃからね。持って帰って読んでみてちょうだい』って、ヘビみたいに鋭い目でこっちを睨みながら言われた。ぼくも、睨み返しながら『わかりました』と。その晩、家で台本を読んだら、泣けるんだよ。シェイクスピアを読んだって、チェーホフを読んだってその場で泣ける台本なんてなかった。でも『裸の十九才』はなぜか涙が止まらない。だからこの映画にはどうしても出たいって思った。あー失敗した! 面接の時に監督を睨むんじゃなかったって。後悔、先に立たず(笑)」
ところが翌日、文学座から電話が入った。
「新藤兼人監督本人からで、『原田君で撮ってみようと思います。よろしくお願いします』ってね。もう天にも昇る気持ちだった。これで死んだっていいやって。撮影期間は6か月にわたった。精神的にはずっと張り詰めた状態の現場だったけど、やって良かった。あの映画のおかげで今の原田大二郎があるといえます」