「外国人の乗客には着物が喜ばれた」(田中敬子)こちらもCA時代のフォト
涙が出るほど厳しい「鬼研修」
研修初日、集まった新人を前に、担当教官は強い口調で言った。
「諸君は、当初の計画では3月の終わりには初フライトとなる。そのつもりでやってもらいたい。言っておくが残された時間は正直少ない。だから徹底的にやる。付いて来れない者は容赦なく置いてけぼりにするから、そのつもりでいてくれ」
つまり、急造のスチュワーデスを機上に送り込むということだ。生来、鷹揚な敬子もさすがに「私もその一人なのか」と身の引き締まる想いがした。
研修は国語、英語、社会、一般常識と、試験に出題された科目から始まった。これでは予備校と変わらない。むしろ、日程的に余裕がない分、予備校より厳しかった。
座学だけではない。機内を模したスタジオでは、あらゆる状況を想定しての対応を試された。接遇訓練である。「外国人客に英語で話しかけられた場合」「乗客が飲み物をこぼした場合」「気分の悪い乗客が出た場合」「怒り狂った外国人客を宥める場合」……あらゆるケースが想定され、その都度適した対応を求められた。提携先のパンナム航空のテキストを参考に施行されたはずだが、厳しい指導は日本式で、涙をこぼす新人は後を絶たない。この辺りは往年の人気ドラマ『スチュワーデス物語』で活写されたものと、そう大差はないのかもしれない。
「泳げます」と“偽装”して入社した同期
そこにランニングや体操などの体育も加わる。水泳もあった。海上に不時着したと想定しての訓練では「はいっ、次」の声に1人ずつプールに飛び込んだ。大きさはそれほどでもないが、水深3mはあろうかというプールである。岸まで辿り着けるだけの泳力は必要で、全員が必死に泳いだ。