家庭菜園には食糧危機を救う大きな可能性が秘められている(写真/PIXTA)
家庭菜園が飢餓を救うカギ
最近はコロナ禍に伴うライフスタイルの変化や、食料需要への危機感もあり、全国で家庭菜園を始める人が増えている。2022年5月25日の日経新聞でも、「350万人が、家庭菜園を耕している」(2020年時点)と報じられており、男女ともに半数以上が60~70代だとされている。
もし全国各地で消費者・生産者という区別をなくし、住民が地域の農家と一体化してかつて農地だった耕作放棄地を分担して耕し、家庭農園や市民農園を拡大すれば、何よりも安心・安全な食料を確保できて、食料危機に耐えられる日本を作る大きなカギとなりうるだろう。
旧ソ連が崩壊後の飢餓を逃れたのは、国策により菜園付きのセカンドハウス「ダーチャ」、つまり家庭菜園で野菜を育て自給自足が推奨されていたからだという指摘もある。日本でも同じようなことが可能ではないだろうか。
それは決して夢物語ではない。実際に、米を育ててみたいという希望はあるものの、方法のわからない一般市民に向けて農家が育て方を指導してくれる「お米の楽校」という制度がある。農家が田んぼを区切って生徒を募り、1区画につき年間10万円程度を支払うことで、区画内で米ができるまでを指導してもらえるのだ。もちろん、収穫した無農薬の米は生徒のものになる。
小麦を作る取り組みもある。2020年、「学校給食のパンに地元産の小麦を使ってもらおう」と、和歌山県の母親3人が「給食スマイルプロジェクト~県産小麦そだて隊!」を立ち上げた。
きっかけは、輸入小麦を使った給食パンから農薬が検出されたことだったという。「子供たちに安全な小麦を使ったパンを」という一心で、過去に作物が育てられていた耕作放棄地を使い、小麦を育てることを希望する親子連れを募集したところ、多くの希望者が集まり、農薬も化学肥料も使わない小麦を育てることができた。しかもそれを学校給食のパンに使用することが叶ったという。
近い将来、お金を払っても食料を輸入できない時代がやってくる。そのとき、国産の安全な食品を豊富に食卓に取り入れることができるよう、いまこそ私たちが行動すべきときなのだ。
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
鈴木宣弘(すずき・のぶひろ)さん/1958年三重県生まれ。東京大学農学部卒業後、農林水産省に15年勤務の後、農業経済学者として学界へ。九州大学大学院教授などを経て2006年より東京大学大学院農学生命科学研究科教授に。
※女性セブン2023年3月30日・4月6日号