「食は命」と掲げられたスーパーマーケット
スーパーに行けば、輸入ものの野菜や肉から、国産の表示がある食品、その中でも有機栽培のものまで、いろいろな食材が並んでいる。どれを選べば生産者を支えることにつながるのか、なかなかわからない読者もいるだろう。
そんな中でまず取り組むべきは、輸入食品に代表される「安くて危ない食品」にできるだけ頼らず、数十円高くても、国産の安心・安全な食品を選ぶことだ。物価高のいま、毎日高いものを購入するのは難しいかもしれないが、安くて粗悪な食品は健康を損ない、長い目で見ればかえって損することになる。
そうした消費者の気持ちに応えるべく、農業従事者と同様に奮闘している“奇跡のスーパー”が存在する。
例えば、群馬県高崎市にある「まるおか」だ。モットーは食の安心・安全。店舗の中には「食は命」という大きな看板が掲げられており、社長自らが全国を回って、野菜や肉、加工品や調味料にいたるまで、直接生産者と取引している。しょうゆやみそも、昔ながらの製法を守る“本物”を扱う。価格は決して安くはないが、「高くても本物を食べたい」と遠方から訪れる客も多く、現在では全国的に有名な店となっている。
生産者が主体となり、安全でおいしい食品を販売するシステムも確立されつつある。その代表格が、和歌山県で生まれた民間の直売所「産直市場よってって」だ。生産者が直接農作物の値段を決められるうえ、和歌山・大阪・奈良と3県にまたがって多店舗で展開し、他県でも販売できる「転送システム」を確立したことによって、1年に1000万円以上を売り上げる生産者も多い。利益の一部は、地元の就農支援の取り組みなどに寄付されているという。
こうした志ある販売者や生産者から購入しようとする消費者が増えれば、日本をとりまく食料事情も大きく変わっていくはずだ。
実際に海外では、消費者の積極的な行動で、国民が「食の実験台」になることが回避されるケースは少なくない。
例えばアメリカでは、化学メーカーが開発した、ホルスタインに注射すると乳量が3割増えるというホルモン剤『ボバインソマトトロピン』に発がんリスクがあると1998年に明らかになると、消費者たちは「ホルモン剤入りの牛乳は飲まない」と声を上げた。具体的には、乳製品にボバインソマトトロピンを使用していない生産者と協力し、ボバインソマトトロピンが入っている乳製品を排除するための大運動を始めたのだ。
その結果、スターバックスやウォルマートなど大手珈琲チェーンやスーパーマーケットが「不使用宣言」をした。
カナダの牛乳も、1Lあたり平均300円と日本よりもかなり高額だが、多くの消費者はそのことに不満を持っていないという。
カナダの消費者たちは「アメリカ産の牛乳は遺伝子組み換え成長ホルモン剤が入っていて不安だから、カナダ産を積極的に買って支えたい」という思いがあるのだ。
スイスでは卵の価格が1個あたり60~80円で、輸入品の数倍の価格だが、国産の卵の方がよく売れている。実際に、10年ほど前に卵を買っていた小学生くらいの女の子に質問したところ、「これを買うことで生産者のみなさんの生活も支えられるし、そのおかげで私たちの生活も成り立つから、この価格で当たり前だと思う」と平然と答えたという話もある。
つまり、国や政治家が動かなかったとしても、消費者が「私たちは安全な食品をしっかり選び、危険なものは排除する」という強い意志を示すことが必要なのだ。これは、消費者にしかできない強い政治行動だといえるだろう。