長く生きるほど人間の環境は変化し、悩みも深くなる。特にアラ還にさしかかれば自分や家族の体調が万全であるという状態の方がまれだ。
「60才を過ぎると夫を亡くす人がいるし、病気の治療や老老介護に追われる人も出てきます。例えば、大病を患った人に『私、海外旅行に行くのよ』と嬉々として話したら、相手は“どうして私だけ……”と落ち込んで次第に疎遠になっていくものです。
孫がいなかったり息子と仲違いしているなど、人はそれぞれ環境が異なります。逆のパターンもしかりで、子供や孫との関係が良好な人の話に妬みや嫉みを覚えてしまえば友達にはなれない。人は人、自分は自分ということをきちんと心に留めて、デリケートな部分に配慮しないと、友人が離れていく危険があります」(小川さん)
コラムニストのペリー荻野さんには病気によって友人と疎遠になってしまった苦い経験がある。
「50代から病気になる友人が多く、ひとりはがんで亡くなりました。彼女は弱音を吐いているところを見られたくなかったんだと思います。病気のことも一切口に出しませんでした。私が『ウチに遊びに来ない?』と連絡しても『遠慮するわ』と言うだけ。そのまま距離が遠くなったまま亡くなりました。
あとから考えれば、あのとき体調が悪かったから断ったのだろうし、心配をかけたくなかったのだろうけど、残された身としては“私に何かできなかったのか”とすごくつらい。病気になるリスクが増す60代からの友人関係を維持するには、お互いにどうしても困ったときには弱さをさらけ出せる間柄になるために、信頼関係を築くことも大事かなと思います」(ペリーさん)
60代で友人関係に求められるものが変わるのは、男性も同様だ。『80歳の壁』をはじめとして数多のベストセラーを生み出した精神科医の和田秀樹さん(62才)が言う。
「会社員である間は押しが強くリーダーシップを積極的に取るタイプの方が出世しやすいし交友関係が広いとみなされます。組織の上下関係のなかで上役とつきあうメリットがあるから、ゴルフや飲み会を半ば強引に誘ってもついて行く人は多い。
しかし定年後、それは逆転します。嫌な相手と無理してつきあう必要がなくなるうえ、普通の友人関係にそこまで強いリーダーシップは必要ない。むしろ他人の話をよく聞いたり、みんなの意見を調整する人が好まれるようになります」
実際に和田さんは、かつて勤務していた高齢者専門のセレブの多い病院で、まったくお見舞いが来ない寂しい“元エリート”を何人も見てきたという。
「患者さんには元大臣や社長など、肩書が立派な人がたくさんいましたが、友達がいない人も、幸せに見えない人も大勢いた。地位や肩書は一過性のもので、それらがなくなって自分の名前だけになったとき、周囲に受け入れてもらえなければ、どんなにお金があったとしても寂しい晩年になると思います」(和田さん)
※女性セブン2023年5月25日号