生前に「老いさらばえた姿をみせたくない」と語っていたという上岡龍太郎さん
「引退するかなり前から『やめたい、やめたい』とおっしゃっていました。ご自分が出ているテレビは一切見ない方で、『老いさらばえた姿をみせたくない』と。
そうはいっても、老いるどころか、まだ第一線でバリバリで仕事をしていましたから、『なぜ引退するんですか?』と聞いても、『もう若い頃のような全盛期の自分じゃない』と。野球がお好きだったので、『ホームランだと思った打球がフェンス際で失速して届かなくなる』とか、そんな喩えをよくされていましたね。でもやめる時もバリバリの3割バッターだったんですよ。
一度決めたら、周囲が説得しても耳を貸さない。求めるレベルが高い、完璧主義者。本人しか分からない美学があったんでしょう。関西の芸人は、多かれ少なかれ、上岡師匠の影響を受けて、背中を見て歩いているんですよ。その背中がなくなるわけですから、僕らは『引退じゃなくて休養にしてください。また帰ってきてください』と何回も言いましたが、『そんなみっともないことはしたくない』と一蹴されました」
あまりに美しい去り際ゆえに、残像は今なお、鮮明に人々の脳裏に焼きついている。