カスハラとはカスタマーハラスメント、つまり客の暴力や暴言、理不尽なクレームといった行為のことだ。とくに小売、飲食はこれが嫌で敬遠する人も多い。
「居酒屋は本当に酷い。酔客相手というのもありますが、精神的におかしくなるスタッフもいます。具体的な話はともかく、バイト先として敬遠される理由でもあります。いまは口コミサイトで書かれたりもしますし、SNSで晒されたりもしますから」
他の元アルバイトの話でも「時給に見合わない」原因のひとつに挙げられたのがこのカスハラだ。
「私は辞めた身で、そうした業界をあまりよく思ってはいません。そんなところで自分の子どもを働かせたくはないです。多くの親御さんもそうだと思います。子どもに『ブラックだからやめとけ』という親御さんはネットの情報はもちろん、もしかしたら学生時代とかアルバイトして、その経験から反対する親御さんもいるかもしれません」
学生アルバイトの親はいまなら40代、50代だろうか。居酒屋チェーン全盛期に若い時代を過ごした世代でもある。
「そういうイメージの蓄積もあると思います。実際、時給に見合っていませんし、他に仕事があればやる仕事ではないと思います」
彼の個人的な意見だが、実際問題として絶望的に人の集まらない業種となっていることは事実である。
では居酒屋チェーンのアルバイト経験者としてはどうだろうか。なるべく直近でバイト経験のある20代男性に話を聞いた。いまは新卒で人気企業に入社しているが、コロナ禍以前、学生時代の一時期ながら都内の居酒屋チェーンでバイトしていた。
「すぐ辞めました。ほんと時給に見合っていません。それにテスト前のシフト希望を提出したら店長が『単位なんか知るか』ですよ。社員は店長と他2人でしたがずっと店にいるし、目もギラギラしていて言動がおかしくて、なんだか怖かったです」
労働環境の悪循環もまた居酒屋チェーン最大の問題だと、冒頭のマネージャーは語る。
「はっきり言ってこの業界、人を人とも思わない会社が普通に存在します。それが居酒屋チェーン最大の問題で、業界全体の足を引っ張ったまま、今日まで来ています。お昼を1時間とる店長は失格とか、熱で休むうちは一人前の社会人ではないとか、労働基準法を破ってこそ我が○○(社名)とか、本当にこういうことを言いのける幹部がいて、オラオラ系だか知らないが、それがかっこいいとすら思っている。本当にこんな子供っぽい、昔のヤンキーみたいな幹部たちがいます。もう令和なのに、居酒屋チェーンの体質は基本、こんなものです」
そうでない人もいる、そうでない会社もある、というのは当然だが、これまで多くの報じられてきた居酒屋チェーンの実態、そして労働問題は「信じられない」ものばかりであることは事実である。下記の通り、労働基準監督署の事例でも居酒屋チェーンは本当に多い
〈平成22年7月1日から同年7月31日までの間、労働者11名に対し、賃金合計約157万円を所定支払日に支払わず、過去にも賃金不払が常態化〉