新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言により、閑散とした飲食街。休業や時短営業のときに失ったアルバイトが戻ってこない居酒屋は多い(イメージ、時事通信)

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言により、閑散とした飲食街。休業や時短営業のときに失ったアルバイトが戻ってこない居酒屋は多い(イメージ、時事通信)

「時給をさらに上げることはもちろんだが、働き方の自由度を変えるべきだ。いままでとまったく違う、発想を転換するくらいの。スポットで1時間でもいいし、余計なシフトも考えず、自分の都合で働いて構わない。ベンチャー系の居酒屋ではすでに取り入れているところもある。難しいことはわかるが、少子化で若者の絶対数が少ない。これからもっと少なくなる。このままでは店が回らない」
 
 人手不足は日本の労働者の価値観の多様化や労働意識の変化もあるが、根本的には日本の少子化をはじめとする急激な人口減という「いまさらどうにもならない」事態が原因である。2070年には日本の総人口は8700万人、うち15~64歳人口は2070年には4535万人へ減少の一方、65歳以上人口の割合は2020年の28.6%から2070年には38.7%へと上昇、生産年齢人口は現在の約半分となる(人口問題研究所調べ)。現時点でも少子化は深刻で、新卒は各企業の争奪戦となっている。平成中期までの、中小企業すら50社100社落ちてようやく決まるとか、そもそも正社員になれないという時代とはまったく違う。一般労働者もまた、どんな仕事も決まらない状態ではなくなった。

 そこでとくに人手不足に陥っているのが、これまで低賃金、重労働、悪環境とされた業種である。

「居酒屋チェーンはまさにそれだ。長年の積み重ね、ブラック業種のまま放置した業界の自業自得だ」

 コンビニ、ファミレス、牛丼チェーン他、多くの小売、外食産業は絶望的な人手不足に陥っている。アフターコロナでこれまでの自粛の分を取り返そうとしているのに、肝心の働く人が集まらない。コロナと関係なく、人員が確保できずに時間短縮や臨時休業、一部では「人手不足閉店」が起き始めている。帝国データバンクが5月に発表した、「過去最多の人手不足倒産」(2013年からの統計で最多)は大きく報じられた。

 大手居酒屋チェーンのフランチャイズ経営に携わる60代役員の話。

「とくに都市部は深刻だ。都心なら時給1400円でも応募は来ない。インパクトを考えるなら時給2000円以上は出さないと来ないように思うが、それは無理だ。これまで、居酒屋チェーンのビジネスモデルそのものがデフレによって成り立ってきた」

 居酒屋チェーンは安くて、早くて、美味いことを売りに業績を伸ばしてきた。とくに「安い」を実現するために、多くのアルバイトやパートといった非正規スタッフを雇い入れ、管理業務を除けばほぼ社員と同等の仕事を最低時給か、少し色をつけた額で任せてきた。人間もデフレだったということか。

「かつては安く使える学生アルバイトや既卒のフリーターが戦力だった。いくらでも来た。とくに既卒のフリーターはフルタイムで入りたがったし、就職が決まらないからと長く働いてくれた。いまなら新卒正社員の幹部候補でも来ないような国公立や名門私大を卒業した子が働いてくれた」

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