LGBTQ+とは
世界的には法制度が整いつつある
2015年にはアメリカの連邦最高裁判所も、同性婚を認めないのは違憲だという判決を出した。
「5月に広島でG7サミットが開催されましたが、そのとき発表されたG7首脳宣言では、〈性的マイノリティの人権と基本的自由に対するあらゆる暴力と侵害を強く非難する〉〈性自認、性表現、または性的指向にかかわらず暴力や差別から解放され、生き生きとした生活を享受できる社会を実現する〉と明記されました。
ところが日本は、G7の中でも唯一、同性婚どころか、性的マイノリティに関する法整備さえされていません。
性別にかかわらず、自分の人生を自分で選び、安心した毎日と幸せな人生を送るという平等な社会を目指すためには、法整備が必要です。差別は個々の心の問題もありますが、社会構造の影響が大きいんです。法律があれば、社会構造が変わります。国や自治体が法の下に動き始めれば、そこには予算が付く。そうすれば、差別をなくすための社会活動もしやすくなります」
日本での法整備は早急に行われなければならない課題なのだ。そんな状況もかんがみてか、2021年に政党を超えて協力する超党派議員が合意した法案が『性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律』、通称『LGBT理解増進法』だ。しかしこれも、性的少数者への理解を広めることで差別のない社会づくりを目指すという法律であり、差別を禁止するためのものではない。
「行政の中で理解を進めるための計画をしたり、各省庁に担当者を設置したり、調査をするなどの体制を整えようという法律でしかありません」
しかもこの法案すら、議員間でも意見が分かれているようで、可決する見通しは立っていない。
国民感情は受け入れる方向に
6月4日に放送された『新婚さんいらっしゃい!』(朝日放送テレビ)では、フランスで結婚したという男性同士のカップルが出演したが、これは、50年以上続く同番組では初めてのことだという。保守的な傾向のあるテレビの長寿番組でさえ、認識を変えつつある。法整備は進まないが、国民感情は徐々に変わっていると、三橋さんは言う。
「同性パートナーを保険金の受取人にできる生命保険が登場するなど、民間では変化が起きています。東京都渋谷区など、同性のパートナーシップを認める自治体も増えています」
法律は変わらずとも、私たちの身の回りから多様性を認める社会に変えていく──そのためにはまず、自分の考えをアップデートすることから始めよう。
【プロフィール】
性社会・文化史研究者 三橋順子さん/性別越境(トランスジェンダー)の社会・文化史研究家。中央大学、早稲田大学などで教鞭をとり、現在は明治大学文学部非常勤講師。主な著書に『歴史の中の多様な「性」―日本とアジア 変幻するセクシュアリティ』(岩波書店)など多数。
取材・文/前川亜紀
※女性セブン2023年6月22日号