川崎市と地域住民が始めた乗合サービスは、小田急小田原線の柿生駅と多摩線の五月台駅間を結ぶルートで運行され、運行日は月曜日と金曜日の週2日のみ。運転本数は1日あたり16便と多いが、運行時間は9時から17時までなので、ターゲットは住民に絞られている。
「実証実験は2023年2月末で終わり、需要は確認できました。本格的に運行するための課題は、なによりも収支です。実証実験中は運賃を無料にしていましたが、運賃を払っても利用したいという人たちが、どの程度いるのかを探っているところです」(同)
団地住民のラストワンマイルを補う自動運転モビリティ
多摩田園都市の公共交通を整備する動きは、川崎市・地域住民だけにとどまらない。民間事業者でも試行錯誤している様子が見てとれる。先述したように、川崎市麻生区と横浜市青葉区は隣接している。市境となる虹ヶ丘・すすき野エリアには多くの団地が残り、約1万2000人の居住者がいる。
同エリアの住民たちは、家から都心部の会社までバスと電車を乗り継いで通っていた。住民たちが会社員としてバリバリ働いていた頃は、それでもよかった。しかし、多くの会社員が定年退職し高齢者となったとたん、不便な住宅地へと変貌する。
もともと、同エリアに鉄道路線を有する小田急電鉄と東急電鉄は、小田急の新百合ヶ丘駅から両社ともにバスを発着。また、両社は東急の田園都市線と横浜市営地下鉄ブルーラインが乗り入れているあざみ野駅からもバスを発着させている。そのほか、川崎市営バスも運行されているので、一見すると虹ヶ丘・すすき野エリアの交通環境は決して不便と思えないかもしれない。
しかし、同エリアは丘陵地を切り拓いために起伏が激しい地形となっている。そのため、自宅からバス停まで、さらに徒歩で30分かかることは珍しくない。そのため、東急・小田急・川崎市営が走らせている基幹バスだけでは、高齢化がすすむ住民の足を賄えなくなりつつある。
3月に東急が実施した自動運転の実証実験は、基幹バスのバス停から各住戸の近くまで、いわゆるラストワンマイルを補うための意味も含まれていた。