久しぶりに格闘技の大会にも出場した
■「今すぐ俺とサシですんのか、詫び入れるのかどっちや」
解散からしばらくすると、サップ西成の知人から「THE OUTSIDERが大阪で興行を打つ」と耳にする。しかし、かつてサップ西成が代表を務めていた大会に出場経験のある選手は省かれて、彼らと交流のない選手らが大会に出場した。
「パーティの件もあった。こっちが活動できへんようになったら来るのか。汚い奴らやなって。僕もまだ若いんで喧嘩を売ってんのかって気持ちになってしまった」
こうして大会中に乗り込んで、プロモーターの前田氏を襲撃したのである。だが、この件にはまだ裏話がある。
「事前に某有名格闘家は前田さんと一応話をしたみたいで、『大阪でやるんだったら言うてたほうがいいよ』って。でも、僕には連絡がなかった」
当日、襲撃を受けた前田は、関係者に付き添われて控室に移動。話し合いにも応じる様子はなかったという。
「僕はリングサイドに居座って、『前田日明を呼んでこい』と。間に入ってる人間とかに。それでも出てこない。1時間ぐらい控室に閉じこもっていた。それで『俺が一人で行くんやから話をさせろ』と。某格闘家ともう一人が、『手を絶対に出すな』という条件で、何人かの立ち合いの元で対面した。僕は一人で向かって、本当いえば命かけるぐらいの気持ちでした。会議テーブルに前田さんが座ってて、周りにも何人かいました。
で、会った瞬間に机を蹴ったんです。『今すぐ俺とサシですんのか、詫び入れるのかどっちや。すぐ決めへんかったら、大会止まったまんま選手に迷惑かかるぞ』って。すると、前田さんが僕らと暴力団の関係を指摘するので、『一切、面倒も見てもらってないし、お金も払ったりもしていない』という話をしたんです。キチンと説明をすると向こうは納得したんです。それで『それやったら帰ります。みんな引き上げます。試合やってください』と言って控室を出た。録音もあります」
ところがこの会話だけで決着とはならなかった。被害届を提出されてサップ西成は逮捕という結末を迎えた。しかも、取り調べ中、被害届が丸見えで、仲が良かった後輩の名前もそこにはあったという。
「僕が逮捕されるのは、当たり前じゃないですか。こんな堂々と行きましたから。でも、いま考えるとやり方が大人気なかった。出場している選手や関係者にも迷惑かけて、今なら違う方法で接触したと思います。若かったでは許されませんけど、反省しています。出来ることなら、一度、前田さんと膝を突き合わせて話をしたい」
幼少期に複雑な家庭で育ったサップ西成は、その想いもあって約15年前から慈善活動にも励んでいる。公言しないだけで孤児院にプレゼントを持参して訪問。先日はTikTokのライブ中、突然こんなDMが届いたという。
「あの時にお菓子とか食べ物をくれたの覚えてますか?」
孤児院で出会った小5の少女は、25歳になった。本人には「一緒に施設へ行こう」とも伝えたという。禊ではないが、伝説の喧嘩師のアンディ南野が始めた北新地の防犯活動もサップ西成は手伝っている。
10年の時を経て、再びリングに帰ってきたサップ西成が、これからどんな軌跡を歩むのか。舞台は整った──。
■取材・文/加藤慶