夏らしさと思い切ったコンセプト
もともと夏ドラマは、海辺の物語や学園ドラマなど、若手俳優が主演を務めることの多いジャンルの作品が放送されやすい季節。今夏で言えば、江の島での恋愛群像劇『真夏のシンデレラ』、五島列島が舞台の『ばらかもん』、学園ドラマの『最高の教師』がそれに該当します。
そんな夏らしいジャンル以外でも、夏は春・秋・冬では放送されないような思い切ったコンセプトの作品が多い季節。たとえば今夏のラインナップを見ても、春・秋・冬に多い刑事、医療、法律という3ジャンルはありません。逆に、内容が謎に包まれた『何曜日に生まれたの』、1兆ドル獲得を目指す成り上がり物語『トリリオンゲーム』は、夏ドラマらしい思い切ったコンセプトの作品でしょう。
視聴率調査が大幅にリニューアルされた2020年春以降、スポンサーのニーズに合うコア層(13~49歳)に向けたドラマ制作が進められるようになり、翌年あたりから主演俳優も徐々に若返りはじめていました。各局で「若年層に人気の20代俳優をもっと起用していこう」という動きがあった上に、コロナ禍の制限緩和が見えはじめた昨年から、今夏の布石は打たれていたようです。
もともと学生も社会人も長期休暇のある夏は、各局で若手起用の意識が最も高まる季節。つまり、夏は20代俳優にとって最も初主演のチャンスが得られやすい季節であり、視聴率調査のリニューアルやコロナ禍の影響などもあって、その傾向が加速したのでしょう。
世間から求められる地道な助演実績
今夏、主演を務める20代俳優の共通点は、地道に助演で経験を重ねて芝居を磨き、視聴者に顔と名前を売ってきたこと。森さんと目黒さん以外の7人は、すでに20作以上のドラマ出演経験を持ち、伊藤さんと飯豊さんに至っては50作を超える実績があります。
ポイントは、作り手だけでなく視聴者も彼らの成長する姿と、作品を重ねるごとにクレジットの順番が上がっていくステップを見てきたこと。これまで積み上げてきた実績や実力を知るほか、幅広い世代からの認知と親近感もあるため、気が熟したかのように初主演を応援するムードが生まれやすいところがあります。
一方で、助演の経験をあまり積まずにいきなり主演を飾ることは難しい時代になりました。マーケティングの観点から編成や営業など局内の理解を得られにくいほか、視聴者からSNSで「ゴリ押し」などと嫌われやすいため、本当に実力のある人や助演で経験を重ねた人が望まれる傾向があります。