福島原発の処理水放出は国際原子力機関が報告書で安全性を保証している。中国側の批判は、それを承知の上での「確信犯の言いがかり」ではあるが、それでも中国政府は日本の水産物への輸入規制を段階的に強め、海洋放出すれば全面禁止もありうることを事前に通告していた。
それなのに、日本の水産行政の責任者である野村農水相さえこの事態を「全く想定していなかった」とすれば、お粗末を通りすぎて政権の無能ぶりを露呈している。安全保障に詳しい評論家の潮匡人氏が指摘する。
「岸田首相は投石事件などを受けて『邦人の安全確保に万全を期す』と語り、日本の大使館は中国在留邦人に注意喚起を行なった。しかし、その内容は、『日本語を喋るな』というものです。“現地では中国人のフリをしろ”と言っているも同然で、効果ある対策なのは分かるが、日本人のプライドをどう心得ているのか。日本国民が中国で堂々と日本語を使っても安全なようにするのが外務省の役目でしょう」
あまつさえ、岸田首相は海洋放出から1週間も経ってから官邸でヒラメの刺身など福島県産の食材を使った昼食を取り、安全性をアピールしてみせた。パフォーマンスをやるなら、もっと早く「オレも食べてる。安全なのだ」と中国の批判に対抗しなかったのか。
※週刊ポスト2023年9月15・22日号