年寄株の問題も
照ノ富士側にも簡単に引退するわけにはいかない事情がある。すでに帰化して日本国籍を取得している照ノ富士は年寄株襲名の資格を有しているものの、肝心の年寄株が見つかっていないとされるからだ。若手親方が言う。
「所属する伊勢ヶ濱一門は弱小派閥で、一門内で年寄株が不足している状況です。同じく伊勢ヶ濱一門で歴代最多優勝回数を記録して資金力も豊富な元横綱・白鵬(現・宮城野親方)でさえ、なかなか年寄株が見つからず、時津風一門でスキャンダルにより退職に追い込まれた元・時津海から『間垣』の株をようやく取得できた。
一門内では理事選への出馬を画策している白鵬が年寄株をかき集めているとみられ、年寄株を調達するのはより難しくなっている。錦戸部屋の部屋付きの千田川親方(元小結・闘牙)が退職するとすぐに、徳勝龍が引退して『千田川』を襲名するといった具合に、引退した力士に押し出される格好で廃業する親方がいるような状況です」
照ノ富士の年寄株探しを巡っても、複雑な椅子取りゲームの様相となっているのだと若手親方は続ける。
「照ノ富士が所属する伊勢ヶ濱部屋では、部屋の人気力士だった安美錦(現・安治川親方)が部屋を継承すると見られていたが、新しく部屋を興した。その一方、伊勢ヶ濱親方(元横綱・旭富士)が今年7月に63歳となり、2年後には定年を迎えます。親方は参与として再雇用を希望しているといい、後継者とみられる照ノ富士はそれまでに年寄株を取得して、親方と名跡交換しないといけない。にもかかわらず、取得の目処が立っていないとみられているわけです。
伊勢ヶ濱部屋付きの楯山親方(元前頭・誉富士)がワンポイントで部屋を継承し、照ノ富士が横綱特権で現役名のまま5年協会に残りつつ年寄株を探すか、伊勢ヶ濱親方の70歳での退職を待つといったシナリオでしょう。そのためには1日でも長く現役を続ける必要があるのです。だからこそ、優等生横綱のアピールを続けるほかない。とはいえ、霧島や豊昇龍が横綱に昇進したら、進退を巡る風当たりはすぐに強くなるのでしょうが……」
ファンが望むのは相撲内容の充実した横綱の土俵だが、それはいつ見られることになるのだろうか。
※週刊ポスト2023年9月29日号