一番最初に出会ったタイムスリップ映画は『タイム・マシン 80万年後の世界へ』
計算していない画からリアリティは生まれる
このドラマが特異なのは、主人公の沢嶋がカメラを回しているという設定のため、主演である要が画面に映る時間が極めて少ないという点だ。しかし、その存在感は絶大。なぜなら、画面に映っていないときも、要は実際にそこにいたからだ。それどころか、設定ではなく本当にカメラを持って撮影もしている。
「映らなくても全然喜んでやってくれてましたね。突然レポートしてくれって振っても、そのライブ感を楽しんでくれていました。たまたま転んじゃったりして、カメラが落ちて電源が切れて入れ直すみたいなことがあったんですけど、それがリアルでホントにビデオジャーナリストみたいで。そういう計算していない画を使っていくとすごくリアリティを持つ。
それがこの番組の面白さだと気づいて、そういうところを採用していったら、当初は硬いジャーナリストというキャラクターだったんですけど、要さんが本来持っているチャーミングな人間臭さみたいなのがどんどんキャラクターに反映されていきました。そこがシリーズを重ねていく醍醐味でもありましたね」
多くのドキュメンタリーがそうであるように、音声や照明のスタッフも使わないスタイルで撮影された。声が聞き取れなければ聞き返せばいい。そこにリアリティが生まれる。リハーサルも危険なシーンを除いておこなわなかった。
「一応台本はあるんですけど、役者さんたちには崩していいと伝えていました。言葉が詰まったりとか、別の役者さんと話すタイミングかぶったり、変な間があいたり、そういうのが欲しかったから、リハーサルをやっちゃうとやっぱりみんなプロだから癖で計算しちゃうんですよね。カメラがここにあるから、体を開こうとか。むしろ、カメラを意識しないでください、ぶつかっちゃってもいいですと。だから、ドラマ的にうまくいっちゃうとNG(笑)。きれいなカメラワークできれいな芝居になっちゃうとフェイクドキュメンタリーにならないですから」
唯一放送してしまった現代的な“ある言葉遣い”
そうした通常の演技とは違う能力が求められるため、オーディションは非常に難しい。しかも、リアリティを追求した本作は、役者に髪の毛を実際に剃って髷を結うことまで求めた。
「最初、『髪の毛を剃る条件だったら来ませんよ』って言われたんですけど、やってみたら結構来ましたね。日本にこんなに俳優いるんだっていうくらい。ただやっぱり演技経験の豊富な方は時代劇の『~ござる』みたいな様式をなかなか壊せなかったり、逆に演技経験がない方だと、ただの棒読みだったり、素人さんが演技をしているみたいな感じになっちゃう。演技をしていない状態のような雰囲気を演出するのは難しかったですね」
リアルを追求していく中で悩ましい問題となったのが言葉遣い。可能な限り当時の言葉遣いにするという選択肢もあったが、そうするとアドリブが難しくなり、ドキュメンタリー的なリアリティがそこなわれてしまう。そうした中で大きな失敗もあったという。
「弓矢を教えるシーンがあったんですけど、コーチの役の人がアドリブで教えるというシーンで『こういうイメージでやってください』みたいに言ってたんです。『イメージ』という当時ではありえない単語に編集した段階でも気づかなくて。実は、実際に一度そのままオンエアしてしまったんです。それで放送した後にわかって再放送では編集で消したんですど、時代劇のフェイクドキュメンタリーは難しいなと痛感しました」