国内

【30年前の未解決事件】謎のダイイングメッセージ、警察内の対立、捜査幹部の出世争い…警察もの“あるある”満載の迷宮入り事件

警察もののドラマや小説を地で行くような未解決事件があった(イメージ)

警察もののドラマや小説を地で行くような未解決事件があった(イメージ)

 一般の会社員と変わらない刑事の出世争いと足の引っ張り合い、他県警を敵視したり見下したり……警察小説やドラマに見られる“あるある”が凝縮されたような事件が実際にあった。当時、マスコミ記者として取材に当たったジャーナリストの宇佐美蓮氏が「警察官もただの人だと示す事件」と振り返る、30年前の迷宮入り事件とはどんなものか。宇佐美氏が解説する。

 * * *

隣接する都道府県警同士の「力関係」

「天下の警視庁捜査1課が」──。筆者の質問に警察関係者は事件当時、何度もこう繰り返した。事件は1994年5月のゴールデンウイーク真っただ中に起きた。山梨県大月市の国道139号脇で5月3日朝、男性が頭から血を流して倒れているのが見つかった。男性は東京・八王子在住の50代タクシー運転手。山梨県警と警視庁は大月署に捜査本部を設置し、強盗殺人未遂容疑などで捜査を始めた。男性は4日後の7日に脳挫傷のため死亡。容疑は強盗殺人などに切り替えられた。

 3日午前0時頃、男性は客を乗せた時に出す無線信号を配車センターに発信後行方不明となり、6時頃に山道脇の約3メートル下にあったコンクリートの上で意識不明の状態で発見された。運転していたタクシーは3日夜、客を乗せたとみられる八王子の飲食街からそう遠くない路上に乗り捨てられているのが見つかったが、計約3万5000円の売上金が入ったバッグはなくなっていた。

 捜査は開始当初から少し様子が変だった。強盗などの凶悪犯を担当するのは全国どの警察本部でも「花の捜査1課」だ。しかし捜査本部には現場を管轄する山梨県警の捜査1課と八王子を所管する警視庁の「捜査共助課」が入った。

 捜査共助課があるのは大規模警察本部に限られる。通常は凶悪犯の捜査を直接手掛けることはなく、指名手配犯の追跡捜査を専門とし、警視庁の捜査共助課はオウム真理教の特別手配犯を長年追い続けていたことで知られる。役割を細分化する人員的余裕のない山梨県警には、今も昔も捜査共助課はない。

 ではなぜ警視庁では捜査1課でなく捜査共助課が担当となったのか。警視庁側から聞こえてきたのは「天下の警視庁捜査1課がわざわざ出ていく難事件じゃない」「県警内部で仲たがいしていてうちと連携できる状態ではない」との声だった。

 警視庁と神奈川県警との確執を題材にした人気作家・今野敏の小説『隠蔽捜査』シリーズ5『宰領』が俳優・杉本哲太主演でテレビドラマとなるなど、神奈川県警は管轄地域の隣接する警視庁をライバル視しているとか、大阪府警と兵庫県警が反目しているとかいう、県境をまたぐ2つの警察機構が対立する設定の小説などの創作物は少なくない。

 だが「天下の警視庁捜査1課」という表現が警察内部から漏れ伝わってきた事実には、警視庁側が山梨県警側を見下しているか、定員わずか約1700人の県警側が約4万5000人を擁する警視庁側の言いなりになっているかだと感じさせられた。

関連記事

トピックス

神谷宗幣氏(写真中央)が率いる参政党は参院選で大躍進した。東京選挙区でも塩入清香氏(右)が当選(2025年8月写真撮影:小川裕夫)
《午前8時の”異変”》躍進した「参政党」、選挙中に激しい応酬のあった支持者と反対派はどこへ?参院選後の初登院の様子をレポート
NEWSポストセブン
「地面師たち」からの獄中手記をスクープ入手
「全てを話せば当然、有罪となっていたでしょう」不起訴になった大物地面師が55億円詐欺「積水ハウス事件」の裏側を告白 浮かび上がった“本当の黒幕”の存在
週刊ポスト
「お笑い米軍基地」が挑んだ新作コント「シュウダン・ジケツ」(撮影/西野嘉憲)
沖縄のコント集団「お笑い米軍基地」が戦後80年で世に問うた新作コント「シュウダン・ジケツ」にかける思い 主宰・まーちゃんが語る「戦争にツッコミを入れないと」
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《大谷翔平が“帰宅報告”投稿》真美子さん「娘のベビーカーを押して夫の試合観戦」…愛娘を抱いて夫婦を見守る「絶対的な味方」の存在
NEWSポストセブン
令和最強のグラビア女王・えなこ
令和最強のグラビア女王・えなこ 「表紙掲載」と「次の目標」への思いを語る
NEWSポストセブン
“地中海の楽園”マルタで公務員がコカインを使用していたことが発覚した(右の写真はサンプルです)
公務員のコカイン動画が大炎上…ワーホリ解禁の“地中海の楽園”マルタで蔓延する「ドラッグ地獄」の実態「ハードドラッグも規制がゆるい」
NEWSポストセブン
『週刊ポスト』8月4日発売号で撮り下ろしグラビアに挑戦
渡邊渚さん、撮り下ろしグラビアに挑戦「撮られることにも慣れてきたような気がします」、今後は執筆業に注力「この夏は色んなことを体験して、これから書く文章にも活かしたいです」
週刊ポスト
強制送還のためニノイ・アキノ国際空港に移送された渡辺優樹、小島智信両容疑者を乗せて飛行機の下に向かう車両(2023年撮影、時事通信フォト)
【ルフィの一味は実は反目し合っていた】広域強盗事件の裁判で明かされた「本当の関係」 日本の実行役に報酬を支払わなかったとのエピソードも
NEWSポストセブン
イセ食品グループ創業者で元会長の伊勢彦信氏
《小室圭さんに私の裁判弁護を依頼します》眞子さんの“後見人”イセ食品元会長が告白、夫妻のアパートで食事した際に気になった「夫としての資質」
週刊ポスト
ブラジルの元バスケットボール選手が殺人未遂の疑いで逮捕された(SNSより、左は削除済み)
《35秒で61回殴打》ブラジル・元プロバスケ選手がエレベーターで恋人女性を絶え間なく殴り続け、顔面変形の大ケガを負わせる【防犯カメラが捉えた一部始終】
NEWSポストセブン
モンゴルを公式訪問された天皇皇后両陛下(2025年7月12日、撮影/横田紋子)
《麗しのロイヤルブルー》雅子さま、ファッションで示した現地への“敬意” 専門家が絶賛「ロイヤルファミリーとしての矜持を感じた」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
三原じゅん子氏に浮上した暴力団関係者との交遊疑惑(写真/共同通信社)
《党内からも退陣要求噴出》窮地の石破首相が恐れる閣僚スキャンダル 三原じゅん子・こども政策担当相に暴力団関係者との“交遊疑惑”発覚
週刊ポスト