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高血圧と薬 Part.3|様々な疾患の原因となるサイレントキラー高血圧。まずは食生活を見直す

食生活を見直すことも重要

食生活を見直すことも重要

いよいよ肌寒くなってきた。ブルブル震える寒さで血管は縮こまり、血圧も上がりやすい。医師のなかには「冬だけ薬を増やしましょう」と言う人も──。でも、本当にそれでいいのか。降圧剤を飲み続けることの副作用や、リスクについては当の医師たちの間からも、疑問の声が上がっている。

高血圧と薬 Part.1Part.2Part.3

監修・取材

和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。和田秀樹こころと体のクリニック院長。和田秀樹カウンセリングルーム所長。著書に『80歳の壁』(幻冬舎刊)、『「さびしさ」の正体』(小社刊)などがある。

山口醫院 山口貴也医師
医療ガバナンス研究所 上昌広医師

薬に頼らず血圧を下げる「長生村」医師の食事指導

具体的に降圧剤を減らすにはどうすれば良いか。その指導をマンツーマンで実践しているクリニックが、千葉県で唯一の村「長生村」にある。東京から約1時間半。近くには太平洋に面した九十九里浜があり、サーフィン客で賑わう──。訓読みすれば「ながいきむら」とも読める風光明媚な長生村に、2016年、内科を専門とする「山口醫院」が開業した。近隣に住む女性が言う。
「『薬を飲みたくない』という人が東北や九州、沖縄など遠くから来ていて、地元でも噂が広まっていますよ」

山口醫院で「増える一方の薬」に悩む患者を診察・指導するのが、『薬・減塩に頼らない血圧の下げ方』の著書がある山口貴也医師だ。
同院の最大の特徴は、あえて保険診療を行なわず、患者が全額自己負担の自由診療を採用している点だ。山口医師が語る。
「できるだけ薬を使わない医療を目指す私の診察は“食事指導”がメインです。そうなると、初診では長ければ1人2時間くらい診ることになる。保険診療では経営的にも立ちゆかないのでやむを得ず自由診療としています」(以下「 」内のコメントは山口医師)

生活習慣を整えるのは食生活

その言葉通り、山口医師の治療は何よりも食事に重きを置く。
「病気につながる生活習慣で最も影響が大きいのは食生活。食事の内容で体内の状況が変わります。飲んでいる間だけ数値が下がる降圧剤は、治しているのではなく抑えているだけです」
具体的にどのような食事指導をしているのか。
「私は降圧剤を処方された患者さんにはまず、食事内容を変えて肉類と野菜のバランスを改善するように指導します」
その目的は、「血圧を正常にする」ことではない。

「70歳以上で血圧が150〜160程度であれば、数値を下げるよりも“動脈硬化を進ませない”ことを食事指導の目的にします。高血圧の患者さんのなかには、薬で血圧を下げることで末梢血管まで血液が回らなくなるリスクがあります。食事指導と並行して末梢血管や赤血球の変化をチェックし、診療を進めます」

山口医師の食事指導の基本は、
 ●野菜の摂取量を増やす
 ●砂糖類の摂取を減らす
 ●動物性タンパク質の摂取を減らす の3つだ。

3か月の実践で「70」下がった人も

「動物性タンパク質の過剰摂取は動脈硬化につながりますが、どうしても摂りたい人には、肉より魚を勧めます。肉類に含まれる脂肪酸オメガ6が炎症を起こしやすいのに比べ、青魚に含まれるオメガ3は体内の炎症を鎮める働きがあるからです」

野菜を増やし、糖分を減らす理由についてはこう話す。
「野菜に含まれるカリウムは血管を拡張させる作用があり、ナトリウムを体外に排出する作用があるからです。厳格にするなら1日の食事量の半分以上を野菜にするよう伝えます。また習慣的に砂糖を摂取していると慢性炎症が起きやすく、動脈硬化が進む要因になるため、こちらは極力減らすように促します」

これを基本に白米を玄米に替えるなど精製された炭水化物を減らしていく指導も追加する。こうして3か月から半年間、山口医師の食事指導を受けると、60代、70代の患者でも血圧が50〜70下がることがあるという。
日々の食生活の改善こそ、減薬の第一歩だ。

サイレントキラーに襲われた著名人

歌手のもんたよしのり氏が72歳で急逝した。命を奪った病は「大動脈解離」だった。
亡くなった当日(10月18日)はラジオ番組に生出演するはずだったが、早朝に倒れ、帰らぬ人となった。
これまで大病の既往歴などはなく、訃報を伝える公式ブログで所属事務所は〈あんなに元気でいつもパワフルだったもんたが、天国へ向かうなんて、今もまだ信じられない気持ち〉と綴った。

大動脈解離に襲われた著名人は多い。かつては石原裕次郎氏が1981年、46歳の若さで発症。生存率3%と言われる手術を経て九死に一生を得たことで話題となった。今年2月には笑福亭笑瓶氏が66歳の若さで亡くなった。

高血圧と動脈硬化と大動脈解離

医療ガバナンス研究所の上昌広医師が言う。
「大動脈の血管壁が裂け、血液の通り道が本来とは別にもう一つできた状態が大動脈解離です。大動脈の破裂や、多くの臓器に障害をもたらす重大な合併症を引き起こす危険な病気です」(以下、「 」内コメントは上医師)

大動脈解離は高血圧との関連性が指摘されており、降圧剤の服用者は他人事ではない。しかし、「いつか血管が破裂するかも」と医師から処方された降圧剤を漫然と飲むことが、予防につながるとは限らない。

「大動脈解離は動脈硬化が原因なので高血圧に注意するよう言われますが、それだけではありません。ストレスで慢性的な睡眠不足を抱える中年男性に多く見られる傾向があるほか、一般に夏よりも冬に発症しやすいと言われています。また血圧だけでなく糖尿病やコレステロール、タバコ、肥満、食生活などの複合的な要因で動脈硬化は進みます」

大動脈解離 背中が裂けるような痛み

大動脈解離は、「医師が最も罹りたくない病」とも言われる。
「医師であれば大動脈解離の患者さんを目にしているはずです。胸や背中の激痛を伴う大動脈破裂で亡くなられた方を解剖すると、胸や腹の内は血だらけです。一命を取り留めた患者さんに聞くと、背中の痛みが凄まじい、と。身体の内側に生き物が入り込んだかのように、上から下までグーッと裂ける感じがすると表現した人もいました」

厄介なのが、この病気が“サイレントキラー”と呼ばれ、大動脈の破裂で激痛が生じるまで自覚症状がほとんどない点だ。
「多くの場合、何の前触れもなく胸や背中の痛みとともに発症します。特に危険なのが血管の外膜が破裂するケース。大出血となり、ほぼ即死です」

それでも上医師は「小さなサインになり得る身体の変化はある」という。
「睡眠時無呼吸症候群には要注意。睡眠中にもかかわらず交感神経が優位になり、心臓や血管に大きな負担がかかって血圧も上昇します。それが繰り返されれば、ストレスが蓄積されて大動脈解離につながりかねません」

心臓付近の大動脈の血管壁にコブができ、声がしゃがれることのある「胸部大動脈瘤」を発症した場合も注意が必要だ。
「血管が弱っており、大動脈解離のリスクも高いと言える。ただし、いつ何時発症するかの予測はやはりできません」
突然の悲劇を招かないためには何が必要か。上医師はこう総括した。「医者に言われるままではなく、病気のリスクと薬の副作用のリスクを患者自身が冷静に判断し、そのうえで生活習慣を改善することが重要です」

※週刊ポスト2023年11月10日号

高血圧と薬 Part.1Part.2Part.3

もんたよしのりさん(時事通信フォト)

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今年2月に大動脈解離で亡くなった笑福亭笑瓶さん

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石原裕次郎さんは大動脈解離を発症し手術にて九死に一生を得た

石原裕次郎さんは大動脈解離を発症し手術にて九死に一生を得た(時事通信フォト)

75歳以上に慎重な投与が必要な「降圧剤」

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