合同訓練で、ヘリコプターから降りる日本の警察の特殊部隊SAT(時事通信フォト)
他の組織では、スワットは抗争が起きた時や組員が他組織の組員らとケンカをした時などに編成されるが、弘道会は常にスワットが配備されていると幹部は話す。「弘道会の親分らが動く時は、常にスワットが護衛していると聞く。親分らがレストランで食事をする時は、後ろや横に立つボデイガードとは別に、レストランの周辺の交差点や角をスワットが警護している。彼らは警察のSPと同じ鉄板が入った見開きの防弾鞄を持っている。スワットがその鞄を持って立っていると、自分らには弘道会の親分たちが来ているとすぐわかる」と幹部はいう。
それは素人目にもわかるのかと尋ねると、「ヤクザの親分が近くにいるというのはわかるね。スーツ姿で、見開きのファスナーを開けた広げた鞄を持って、ごっつい男たちが交差点の角々に立っていたらおかしいだろう。それがキョロキョロと四方八方に目を配っている様子は異様だよ」(幹部)。
弘道会のように、常に襲撃の危険がある組では、ボディガードだけでなくスワットによる護衛が欠かせないらしい。「組の車より危ないのがタクシーだ。降りた時に弾かれるということもあるし、走行中に窓ガラスを狙って近づいてくるオートバイもいる。どんなヤツがいつ襲ってくるかわからない」。
他の組はと聞くと、「いくつかの組にはスワットがいる」と言って幹部があげたのが2022年10月に岡山市内の理髪店で池田組の組長が襲撃された事件だ。池田組は、六代目山口組から分裂した際に山健組らと神戸山口組を結成、しかしその後、神戸山口組からも脱退し独散組織となっていた。資金力が豊富で、かつ神戸山口組や絆會との連合を実行しようとした池田組は、六代目山口組にとっては邪魔でしかない。2016年5月に若頭が弘道会系の組員に射殺され、2020年5月には後任の若頭が銃撃を受けている。それ以前にも組の関連先などに車両が突っ込まれる事件が連続、六代目山口組から狙われ続けていたのだ。
そしてこの日、組長は理容店にいたところを、六代目山口組に神戸山口組から戻った山健組系の妹尾組幹部に襲撃された。催涙ガスとサバイバルナイフで組長を襲った実行犯は、その場で数名のボディガードに取り押さえられたと報じられているが、幹部の話ではその中にはボディガードだけでなく、スワットがいたという。
「抗争中の組では、ボディガードだけでなく、しっかりとスワットが組織化されている。襲撃する方も自分が助かりたいと思うヤツは、逃げられる方を選ぶが、やってやるという心意気が違うヤツは飛び込んでくる。そのため命を張って親分を守れるヤツを選びだす」。
しかし、それも特定の組に限った話のようだ。「自分らの周りでスワットが集められるようなことは、最近ほとんどない。山口組分裂抗争の時のような緊迫状況はないからね。それにどこそこが襲撃されたと聞いても、もはや他人事だ。自分みたいなヤクザが、今のこの業界にはうんざりするほどいる」。幹部は最後に皮肉交じりの声でこう言った。
「今の俺たちは”スエットでも着てスワットけ”って感じだね」