所得税の税収はこの2年間で約5.5兆円も増えた。だが、同じ期間の名目賃金上昇率から計算すると、賃上げによる増収は1兆円程度(※注:国税庁「民間給与実態統計調査」によれば、2021年、2022年の名目賃金上昇率はそれぞれ2.4%、2.7%。2020年度の所得税収〈19.2兆円〉から2年間での名目賃金上昇により増加した所得税収額を計算すると、約1兆円になる)のはずだ。差額の約4.5兆円はサラリーマンら所得税の納税者(5170万人)が“インフレ増税”などでこっそりと余分に取られた税金と考えられる。納税者1人あたりざっと9万円も増税されていた計算になる。
たとえ首相が1人4万円の「定額減税」を1回だけ実施しても、本来やるべき税負担の緩和策がなされない限り、インフレによる見えない増税は続くのである。
現在、実質賃金は17か月連続でマイナス。課税最低限の引き上げを行なわなければ国民生活はどんどん苦しくなる。
まず非課税世帯が税金を取られるようになる。
所得税の課税最低限は「夫婦と子供2人」の片働き世帯なら285.4万円だ。名目賃金の上昇でこの基準を少しでも超えれば、これまで納めなくてよかった所得税を取られるようになり、手取りはさらに減る。収入を「106万円の壁」以内に抑えてきたパート労働者も、勤務時間は同じなのに収入が壁を超えてしまい、税金ばかりか社会保険料まで取られることになる。
経済ジャーナリストの荻原博子氏が語る。
「インフレの時に課税最低限を上げないのは最も悪質な増税です。課税最低限とともに『106万円の壁』も引き上げないと、不公平になります。国が課税最低限を上げたくないのは、インフレを逆手に取ってパートの方には強制的に社会保険料を払わせ、非課税世帯からは所得税を取り立てるためではないかとさえ思えます」