22才で俳優を目指した
もうちょっと欲張ってみたい
「役者を続けているのは、飽きなかったから」と語る小日向。どこか自分自身を俯瞰で観察しているような冷静さだ。
「45年役者をやっていても、これでOKというものがない。いつも、ずっと先の見えない理想に向かっている感じなんです。
いよいよ体がいうことをきかなくなったとき『もうやりきった』と満足できる作品に出合うために続けているというか……。
もちろん、すでに参加できてうれしかった作品にたくさん出合えてはいるんですが、まだもうちょっと欲張ってみたいという気持ち。
若い俳優を見て刺激を受けることもあるから、まだ、いまの状況に満足していないんでしょうね」
もし、役者以外の道を選べるとしたら何を選びますか?
「やっぱり絵が好きだから、絵を描いて、ときどき個展で作品がちょっと売れて……そういう生活ができたらいいなあ(笑い)。
いまはまったく描けておらず、もっぱら、家でマリー・ローランサンのリトグラフ鑑賞ですけどね」
国内外の美術館にも足を運ぶのかという問いには意外な答えが。
「仕事だったら喜んで行くけれど、実は外国が苦手。事故にあったら、誘拐されたらどうしようと心配になっちゃう。やっぱり自宅で死にたいから」
怪演ぶりとのギャップに、思わず笑ってしまう。年齢を超えて醸し出す「かわいらしさ」が、俳優仲間からも、視聴者からも愛される理由の1つなのは間違いない。
(了。前編を読む)
小日向文世の出演作紹介
映画『湯道』(2023年2月劇場公開)
湯の道に魅せられ、湯道の家元のもとで入浴の所作を学びながら、定年後は自宅に檜風呂を作ることを夢見る実直な郵便局員・横山正役を演じた。妻・娘に圧倒される父親像も共感を呼んだ。現在Blu-ray(豪華版8580円、通常版5170円)、DVD(通常版4180円)が発売中。
ドラマ『VIVANT』(2023年7月16日~9月17日放送)
堺雅人が主演を務め、社会現象を巻き起こした作品。小日向は主人公が勤める丸菱商事で天才ハッカーの部下と不倫関係にあった長野専務を好演。SNSでは「あれで出演終わり?」と、最終回での登場を願う声も多かった。TBS系。
舞台『海をゆく者』(2023年12月7日〜12月27日、パルコ劇場他にて上演予定)
PARCO劇場50周年を記念した舞台。英国で数々の賞を受賞した物語で、2009年、2014年に上演され、大好評を博した傑作の1つ。重要人物ロックハートを演じる小日向のほか、浅野和之、高橋克実、大谷亮介、平田満と5人の名優が繰り広げる丁々発止のダークコメディー。
【プロフィール】
小日向文世(こひなた・ふみよ)/日本の俳優。1954〜。北海道出身。1977年に『オンシアター自由劇場』に入団し、中核的存在として活躍。1996年の解散後は、活動の場を映像に広げる。これまでに演じた役柄は、検察官、医師、プロ将棋士、悪徳マル暴刑事、普通の刑事、知事、豊臣秀吉、機長、幽霊、ヤクザの親分、パティシエ、落語家、勝海舟、レレレのおじさん、巨匠の漫画家、ゲイバーのママ、科学者、裁判官、警察学校校長、国土交通省事務次官、監察官、指揮者、総理大臣、郵便局員、詐欺師ほか多数。2011年『国民の映画』で第19回読売演劇大賞「最優秀男優賞」、2012年『アウトレイジビヨンド』で第86回キネマ旬報ベスト・テン「助演男優賞」などの受賞歴がある。『ぶらり途中下車の旅』(日本テレビ系)のほんわかとしたナレーションも人気に。長男の小日向星一(28才)と春平(25才)も俳優。
取材・文/佐藤有栄 写真/森 浩司
※女性セブン2023年11月23日号
話題のドラマ『VIVANT』にも出演した
かっこよくポーズをきめる
ダンディな小日向