18時14分きっかりに最初の一杯を頼んだ女性客は、「うちの工場は18時に終わって、支度してここまで歩いて14分。毎日、同じ時間に同じものを頼んでいますね(笑い)。もう習慣、20年近くそうかも」(機械部品・40代)と、この店で日々のリズムを刻んでいる。

毎日決まった時間にやって来る客もいる

毎日決まった時間にやって来る客もいる

 あっという間に店がにぎわい始めた。この時間帯に客が集うのには訳がある。

「18時台は帰りの鶴見線がギューギューの満員電車だからね。空くまでこの店で時間を潰す。そういう客が多いんですよ。重宝してます」(鉄鋼業、40歳)


 観察していると、踏切が鳴るたびに、切り上げた人が出ていく。

「カンカンカンと踏切が鳴ってから帰りの身支度をしても、電車に間に合う。シラフだとね(笑い)。でも、ちょっと酔っちゃてると、乗り損ねてね、『ママ、またやっちゃったよー』と戻って来て、次の電車までの20~30分、もう一杯となるんだよね(笑い)」(食品配送、30代)

「オレくらいのベテランになると、右から来る電車か、左から来る電車か、音でわかるから慌てない」(建設業、50代)

「オレの知ってる限り、電車のダイヤは4回変わった。その度に覚え直しました!」(製造業、57歳)
 
 角打ちには珍しく若い客の姿も。「仕事、失恋の悩みもこの店で先輩に相談した。立ちながらフランクに話せるのがいいですよね」(食品配送、20代)と、はにかみながら話してくれたのは、先輩とやって来たこの日の最年少。「ここだと『今日は何時の電車に乗りますね』と言えますからね。それに、先輩に『一杯奢るよ』と言われても安いから、気兼ねなくご馳走になれます」。

 相方の30代の先輩は「『ちょっと行くか?』と気軽に若いやつを誘える店なんです。キャッシュ・オン・デリバリーだから、ちょいちょいお酒を買いにレジに行くでしょ。飲んでいる間ずっと顔を見合わせているわけじゃないのが、本音を話せる絶妙な距離感を生むのかな」。

若い世代も「気楽に飲める」と集まってくる

若い世代も「気楽に飲める」と集まってくる

 工業地帯とはいえスーツ組も飲んでいるし、珍しい客としては、「鉄道オタク」が来ることもあるという。

「鶴見線は、愛されている路線でね。線路や車両を撮りたい、乗ってみたい、という鉄道ファンが来るんですよ。”テッチャン”のおじさん20人くらいの集団で埋まったことがありましたよ」と店主。鉄道の写真や、列車の模型も店内には飾ってある。

 この店の魔力は、「ほら、酒の残りと、電車の時刻が合わないと、帰れないじゃん」(建設業、50代)という点にある。「『あと5分じゃ、酒が飲み終わらないなあ』と言いながら、電車を一本遅らせたら酒が足りなくなって、また頼んじゃって。じゃあ、いつ店を出るんだよっ!っていう。そのうちシメのうどんをすすったりしてさ。店を出るタイミングを見つけながら、また逸するのよ(笑い)」 。

 壁には手書きの時刻表があちこちに貼ってあって、それを見ながら「閉店時間の20時48分発か、こぼれても21時23分発、それに乗りなよ、帰れなくなるぞー」と店主が声をかける。この店はさながら、鶴見駅に向かう人たちにとって、飲める待合室なのだ。

「みんな”駅前”って愛称で呼んでる。『先に行ってるね』といえばここ。約束しない集合場所ですね」(鉄鋼業、40歳)

 一日の仕事を終え、ホッと気を緩める客らがワイワイ飲んでいるのが焼酎ハイボール。「よく冷えて、キリッとしたこの辛口の酒で仕事の疲れがほどけていくよ」(40代の常連)。

店主お手製のつまみは大人気。よく冷えた焼酎ハイボールとの相性も抜群だ

店主お手製のつまみは大人気。よく冷えた焼酎ハイボールとの相性も抜群だ

 この日も、和気藹々と寛ぐ客が店のあちこちで焼酎ハイボールの缶を傾けていた。

■ほていや酒店

【住所】神奈川県横浜市鶴見区寛政町18-7
【電話】045-501-5825
【営業時間】月~金17~20時48分、 土17~19時、定休:日曜祝日 
焼酎ハイボール170円、ビール大びん430円~、肉汁つけうどん550円、竜田揚げ(4個)350円、ハムカツ200円、エシャレット350円

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