危険ドラッグを吸った男が車を暴走させた事件現場で、献花に向かう田村憲久厚生労働相(左から2人目)、小池百合子衆院議員(同3人目)ら(肩書きは当時)2014年7月5日(時事通信フォト)

危険ドラッグを吸った男が車を暴走させた事件現場で、献花に向かう田村憲久厚生労働相(左から2人目)、小池百合子衆院議員(同3人目)ら(肩書きは当時)2014年7月5日(時事通信フォト)

 当時、筆者が取材しただけでも、危険ドラッグ摂取後にマンションから飛び降りたり、自傷行為をしたりなど、何人もの使用者が命を落としているという実態を確認している。当初「ハーブ」というソフトな響きのために自然由来の何かだという勘違いが広がっていた。だが、その正体は「得体の知れない化学物質」であることが知れ渡ると「危険ドラッグ」という呼称に取って代わり、有害物質だと世間が受け止めるようになった。また、関係当局による指定薬物の「包括規制」などが功を奏し、この危険なブームは収束したのである。

 そして、マスコミ報道などでいま、話題になっている、いわゆる「大麻グミ」だが、実際には大麻由来の成分はほとんど含まれていない。そもそも、所持や売買が禁止されている大麻の成分に由来するものが入っていたら、それだけで違法と判じられ摘発や逮捕となる可能性が高い。マスコミは、販売・製造業社の言い分通りに「大麻グミ」という呼称で報じているが、実態としては、危険ドラッグと同様に、大麻の陶酔成分に似た化学物質が添加されたグミに他ならない。ところが、業者側はあくまでも「大麻」のイメージを押し出している。

 近年、今回の大麻グミだけでなく、「大麻」を連想させるネーミングやパッケージになってはいるが、実際には規制されている大麻成分とは異なる化学構造を持たせた物質を添加した製品が再び街中で、そしてネット通販でかなり気軽に購入できるようになっている。冒頭で筆者が訪れた店にも、若者を中心に多くの来客があり、加熱式タバコのように吸う”大麻リキッド”や”大麻クッキー”、そして当時は新商品とされていた”大麻グミ”など、さまざまな商品が並んでいた。

 なぜ、それらの商品を購入するのかと客に聞くと「本当は大麻の方が良いが、ここの商品はパクられない」「大麻よりキマる」と言って憚らない。店員はある商品を指差して「これはかなり(効き目が)強い、吸った後に運転はするな」と、初心者風の客に説明していた。一方で、常連客には「これは来月から規制されるから、買いだめしておいた方が良い」などとアドバイスしていた。やはり10年前に、危険ドラッグ販売店で見た光景と同じである。

 筆者は、店で商品を購入した若い男女何人かに声をかけたが、ほとんど全員が「大麻由来の商品」であることを疑わず、自然のものなので「体に悪影響は少ない」とすら考えているようだった。危険ドラッグのときよりも、客側に後ろめたさが感じられない。これは10年前に起きた危険ドラッグにまつわる雰囲気と比較して、販売側が商品に「大麻」のイメージを大いに含ませていることが原因であるように思われる。特に近年、海外で嗜好目的の大麻利用が解禁されるなどして、若者が大麻に抱くイメージは中高年者が抱くものとは全く別物だ。だから若者は、大麻っぽいということで、こうした製品を買っていく傾向にあり、この受け入れられ方はやはり危険ドラッグが広まったときとよく似ている。

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