最高視聴率62.9%を記録し、「おしんドローム」を巻き起こした(左から少女時代を演じた小林綾子、16歳からを演じた田中裕子/写真=共同通信社)
木俣:それに対して『ブギウギ』のスズ子は「歌が好き!」が前面にあって、男性に対してもグイグイ行かず、共感というよりも応援したくなるタイプですね。男性作家と女性作家を分けてはいけない時代ですが、『ブギウギ』の男性の脚本家(足立紳・櫻井剛)が描く女性ヒロインは、男性にとっての夢があるのかな? と思ったりもします。
田幸:そうなんですよ。スズ子の恋愛に関して初恋はままごとに近いものでしたが、愛助とも同じような雰囲気で男女のドロドロをあえて描かない。一方でスズ子の母のツヤ(水川あさみ)は母親の業まで踏み込んで描かれていて引き込まれました。
木俣:朝ドラにはヒロインのメンター(助言者)になる人が出てきます。『おしん』では脱走兵の俊作(中村雅俊)や初恋の人であり茶飲み友達のようになった浩太(渡瀬恒彦)。『ブギウギ』では作曲家の羽鳥(草なぎ剛)が主役でもいいというくらい魅力的です。
田幸:最近は“ダメ親父”が出る作品が増えていて、ダメであればあるほどSNSが盛り上がるので、なかには安直に描いている部分も見受けられますが、『ブギウギ』のスズ子の父の梅吉(柳葉敏郎)は秀逸でした。“自分の気持ちにかまけてしまう弱い父”を描き、共感する声が多かった。
木俣:脚本の足立さんに取材した時に「人間のみっともないところもそのまま出して、魅力的に描きたい」ということをおっしゃっていた。これまでの朝ドラだと梅吉は「困った父」や「悪役」という描き方になったと思いますが、そういう風に見せずに視聴者からも嫌われなかった。