大ヒット中の『ブギウギ』でヒロインを演じた趣里(写真/共同通信社)
「大根飯」より夢を見たい
田幸:珍しい現象だと思うのが、色んなところでシニア世代の男性に「『ブギウギ』面白いね」と言われるんです。これまで朝ドラを観なかった人も『ブギウギ』は観ていますし、そういう意味でもすごく成功した作品だと思います。
木俣:女性の生き方として、『おしん』は堅実にお金を稼ぐ「実業」、『ブギウギ』は夢を見させて自分も夢を見るエンターテインメントという「虚業」を描いた。今は視聴者の癒やしや安らぎが求められる時代なのかなと分析しています。
田幸:世界60以上の国と地域で放送された『おしん』ですが、流行ったのは主に発展途上国。当時の日本は『おしん』に出てきた大根飯が「まずいらしいけど食べてみたい」と話題になるくらいの余裕がありました。『ブギウギ』は貧しい暮らしを詳細に描いていませんが、今は日本が貧困国になってきていますからね。現実が貧しいから悲惨なものは観たくない、嘘でも明るい夢を見せてほしいと願う視聴者が多いんじゃないでしょうか。
木俣:1980年代、バブル前夜のイケイケな空気を橋田先生が心配して、『おしん』は日本の辛かった時代を記録し、それを糧に進んでいかなきゃいけないという気持ちでお書きになられたようです。でも大衆は「大根飯」に飛びつき、貧困をエンターテインメントとして消費できた。今は逆に厳しい現実を見たくないからドラマではリアルなことは描かないでほしいという感覚のほうが強い。
田幸:『おしん』でお嬢さんだった加代(東てる美)が没落して娼婦になり、酒浸りになって病で亡くなるという生々しい描写も今はできないでしょうね。そういう意味では、『おしん』を超える作品が生まれるというのは、なかなか難しいと思います。
木俣:といっても、『ブギウギ』はまだ後半がありますから、愛助との関係やその後のスズ子をどう描くかが勝負どころだと思います。終盤にかけても圧巻のステージシーンを描き続けることで歴史に残る作品になる気もしますし、美空ひばりがモデルの人物が登場すれば『おしん』を超える熱狂があるかもしれません。
【プロフィール】
田幸和歌子(たこう・わかこ)/1973年、長野県生まれ。週刊誌・月刊誌・web等で俳優・脚本家・プロデューサーなどのインタビューを手掛けるほかドラマコラムを執筆。主な著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。
木俣冬(きまた・ふゆ)/東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポタージュ、インタビューなどを執筆。ノベライズ『大河ドラマ どうする家康』(NHK出版 脚本:古沢良太)なども手がけける。主な著書に『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)など。
※週刊ポスト2024年1月12・19日号