都会のカエルの不思議な生態を研究する入江さん。東京五輪、女子フェザー級では準決勝は相手をアグレッシブに攻め立てる「ツノガエル作戦」、決勝では理詰めで相手の手を封じる「トノサマガエル」作戦を、使った
大学院での研究テーマは「都会のカエル」
2023年4月から大学院生となり、平日は大学院の教室に入り浸っている。研究のテーマは「都会のカエル」だ。
「カエルって、“ザ・自然”みたいな場所以外に、渋谷のような都会でも生活しているんです。両生類であるカエルがなぜ都会のコンクリートジャングルの中で生きられるのか。水と陸で生きる生き物ですから、その両方の生き方を使い分けることによって生きられるんじゃないかという仮説を立て、今はデータを集めて、その検証をしている段階です。これまでの研究では、カエルは環境の変化に弱いとされているんですが、意外と生命力があるのではないか。時間があれば都内の公園を散策してカエルを探したり、比較の対象として山でカエルを探してみたり。地道な研究なんですけど、マラソンに取り組むような感覚で楽しいです」
日本にどれぐらいの種類のカエルが存在するのか、皆目見当がつかない。
「ウシガエルのような特定外来種も含めて、48とか、50とか。某アイドルグループの数ぐらいは存在していると思います(笑)。ヒキガエルって、喧嘩をすることがなく、平和主義者なんです。私もそうありたいし、カエルの生態を通じて、環境の変化の中で人がどう生きていくかを考えていきたい。まだ研究を始めたばかりで、私という人間が研究者に向いているのかもわからないんですが、とりあえず修士の2年と博士過程の3年を過ごしてドクターにはなりたいし、“カエル人(じん)”として将来的にもカエルに関わるお仕事をしていきたい」
鳥取県米子市に生まれ、14年間のボクシング生活の末、同県人として初めての金メダリストとなった入江さんがボクシングから完全に離れて、約1年が過ぎた。
「金メダルを獲っていなければ、今頃は普通に就職していたかもしれない。オリンピックが人生を変えてくれたのは間違いありません。私ほど不器用な人間が、毎日コツコツと頑張っていたら、金メダルまで獲れた。努力しても必ずしも報われることはないし、裏切られることもある。だけど、ああやって努力が報われる経験をできたことは、これからカエルの研究を頑張れる原動力になります」
カムバックするつもりはないのか──最後にそう問うと、
「マイナス100%ありません」
と断言し、入江さんはガハハハと笑った。
取材・文/柳川悠二 撮影/藤岡雅樹