函館市の海岸に大量に打ち上げられたイワシ(2023年12月、アフロ)
幻の深海魚を連続目撃
海洋生物が示す予兆は、歴史にも刻まれている。高知県室戸市で“幻の深海魚”と呼ばれる「リュウグウノツカイ」が、昨年6月に2日連続で定置網にかかった。さらに昨年1月に兵庫県但馬地域の沿岸で、世界最大級の無脊椎動物である「ダイオウイカ」の目撃が相次いだ。大阪府立環境農林水産総合研究所の元主任研究員・鍋島靖信さんが語る。
「過去の大地震の発生前に、リュウグウノツカイやダイオウイカが、日本の沿岸で見つかったという記録が残されています。これらは深海に生息し、普段はめったに姿を現さない生物です。これは海底で地震の前に発生すると考えられている低周波震動の影響で、海面近くまで浮き上がってきた可能性が指摘されています」
諏訪之瀬島の噴火
予兆は陸でも起きていた。昨年10月、小笠原諸島の硫黄島の沖合で海底火山が噴火し、岩石などが積み重なって新たな島が出現。同時に九州でも火山活動が活発化している。
「地震と火山噴火は密接に関係していて、どちらもプレートの動きによって引き起こされるものです。プレートが動いてほかのプレートの下に潜り込むときに深さ90〜130kmのところでマグマが生まれ、それが噴火口まで上がってくると噴火が起きます。その過程でプレートのひずみが限界に達して跳ね上がれば地震が起きる。火山の噴火はプレートの活発化を意味し、同時に地震のリスクも高まっていると言える。
今年に入って諏訪之瀬島(鹿児島県)の御岳が噴火。この島の位置が南海トラフに近いこともあり、大災害をもたらすと予想されている南海トラフ地震の予兆ともいわれています」(前出・島村さん)
南海トラフ地震は、関東全域にまで降灰被害をもたらす富士山噴火を誘発するともいわれている。諏訪之瀬島の噴火は、未曽有の大災害の予兆かもしれない。
凶暴化した熊も地震の前兆(写真/アフロ)
熊の凶暴化
熊が人を襲う事件も全国各地で相次いだ。環境省の発表によると、昨年4月から12月末までの熊による人身被害の件数は196件(暫定値)で、2022年度の71件をはるかに上回る。能登半島がある石川県内でも5人が熊被害にあっている。熊の凶暴化も、地震と関連している可能性があるという。
「熊などの陸上生物は地面に近いところで暮らしているので、地中の異変を感知していても不思議ではありません。ストレスなどを感じて、行動が変化した可能性も考えられます。実際、地震の前に動物の行動が変化したことは過去にもあるんです。1975年に中国で起きた『海城地震』(M7.3)では、地震発生前に豚が木をよじ登ろうとしたり、牛同士がけんかしたりといった異常行動が確認されました」(前出・島村さん)
能登半島地震で甚大な被害が出た石川県輪島市(時事通信フォト)
ラジオのノイズ
空に目を向ければさらなる予兆が見えてくる。その1つが「電離層」の乱れだ。地球の上空60〜数百kmの高さには、「電離層」という電気を帯びた大気が地球全体を取り囲んでいる。この電離層は地震の影響を受けると考えられており、東日本大震災や熊本地震(2016年)の発生数日前から、層内の電子密度が変化していたことがわかっている。地震発生の前段階で、地中の岩盤に力が加わり、地表に放射性ガスなどが放出される。それらが電離層に影響して乱れが生じるとされているのだ。
この電離層の乱れは、ラジオの電波に影響を及ぼすとされており、今回の能登半島地震でも、「地震発生前からラジオにノイズが混じるなど受信状況が悪かった」という声がインターネット上にあがっていた。
そして、空が示す予兆といえば「地震雲」がある。過去には、大地震の発生前にさまざまな形状の地震雲が報告されてきた。たとえば東日本大震災では、発生6日前に神奈川県でらせん状の白い雲に尻尾のような灰色の雲が重なった「竜巻形」の雲が観測され、1995年の阪神・淡路大震災の8日前にも同様の雲が現れていた。
能登半島地震前に目撃された"地震雲"と同じタイプの「穴あき雲」。(写真はイメージ、アフロ)
今回の能登半島地震の発生5日前、12月27日にも地震雲は現れた。愛知県安城市の上空で薄く広がった白い雲の中にぽっかり円形の穴があいた「穴あき雲」が見られたという。さらに発生2日前の12月30日には、石川県小松市の上空で、白い雲が細長く伸びる「龍雲」が確認された。これらは能登半島地震の発生を知らせるものだったのか──島村さんはこう指摘する。
「雲というのは元来、千差万別であらゆる形状や色のものがあるので、あまりあてになりません。雲の特徴によって事前に地震を予測するというのはできないと考えています」
南海トラフ地震の前兆ともされる諏訪之瀬島の噴火(2024年1月)
科学的根拠は見出せないというが、電離層然り、巨大地震の発生時には空にも何らかの影響が及ぼされている可能性はある。能登半島地震が発生する2日前から当日にかけて、空を埋め尽くすほどの鳥の大群が集団移動する光景が、北陸地方や中部地方の各地で目撃された。鳥たちもまた、大地が発した異変を敏感に感じ取ったのかもしれない。
大地震の予兆ともとれる事象は少なくないが、科学的に解明されていない点も多い。災害予測情報研究所代表の織原義明さんはこう話す。
「予兆といわれる事象が大地震発生と関係があるか否かは、現段階ではどちらとも言い切れません。必要以上に不安を抱かないようにしてください。ですが、予兆かもしれない異変が自分の暮らす地域の近くで発生した場合、それを機に自らの備えを確認するなど、防災を意識することに役立てても悪くはないかもしれません。大地震は自分の足元で起こり得ると、日頃から備えておくことが大切です」
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※女性セブン2024年2月8日号