1995年11月、マイクロソフト社のウィンドウズ95日本語版発売で混雑する東京・秋葉原の「ラオックスコンピューター館」(時事通信フォト)
実際、フロッピーを使われて困る例もある。九州のある小さな個人の写真館についての話。
「証明写真を撮ってもらったんですけどフロッピーで渡されたんです。なんですかこれ、って言ったら「うちはずっとこれで渡してるって」。もちろん現像写真はいただきましたけど、データはフロッピーでした」
話の主は20代の女性なので面食らったに違いない。店主は「うちはフロッピーしかない」だったとのこと。実際、官公庁や金融機関、医療福祉関係などが脱フロッピーできなかったのは「相手に合わせる」もしくは個人店主の一部のような「自分がそれしか使ってこなかったし、変える気も必要もない」という面もあったように思う。学校関係がいまだにFAXを使っているのと同様だろうか。
文部科学省の調査によれば業務にFAXを使用している学校は9割に及ぶ(2023年)。FAXの相手は保護者だけでなく民間事業者がもっとも多い70%ということで、学校指定のいわゆる「地元の制服屋さん」「地元の文具屋さん」的な、古くからの地元の指定業者や出入り業者が占める。確かに田舎のそうした店の多くは高齢者やその家族、そのまま継いだ方々で、昔からの方式でも何の問題もない、で来てしまっているのだろう。
しかし、近年は世代の問題ではないと、クラウド型業務システムなどを手掛ける企業のIT関係者(50代)はこう語る。
「パソコンについてくのがやっととか、パソコンなんか使わないって感じの団塊世代(現在の70代後半)から上がほぼ現場の第一線から引退して、いまや60代すらパソコン第1世代ですからね。年寄りはパソコンができない、なんて過去の話になりつつあります」
例えば、高橋名人が64歳と考えれば確かにそうだ。むしろいまの60代技術者や趣味人が日本のホビーも含めたパソコン産業の礎を築き上げたと言っても過言ではない。
「彼ら60代は20代でホビーパソコンに触れて、30代でWindowsに移行して、40代でIT全盛期、50代でスマホですから、「高齢者はパソコンが使えない」も、それこそ古い価値観のように思います。実際私の会社も経営陣は60前後とかで、それこそ「マイコン」世代ですから。パソコンが当たり前の時代の高齢者、の時代になりつつあります」
いつまでも「高齢者はパソコンが苦手だろ」という思い込みもまた「エイジズム」だろうか。思えば1980年代のホビーパソコン(いわゆる「マイコン」)およびビジネスパソコン普及期はともかく、Windows95を35歳の働き盛りで迎えた方々すら、彼の言う通り現在60代。もちろんパソコンが苦手という人もあるだろうが、それは世代の問題ではなく個人の問題だろう。
「むしろ20代から下の若い世代のほうがパソコンを使えない、なんて人が多いようにも思いますよ。日常生活に限ればスマホやタブレットで済んでしまいますからね。デスクトップパソコンなんて業務や高度なゲームを除けば、それこそ人によっては触れずに済む時代ですから」