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【桐島聡の潜伏生活】「逃亡先はまったく想像できていなかった」元公安トップが明かす捜査状況と隠蔽された天皇暗殺未遂事件

桐島聡について元公安トップが証言(時事通信フォト)

桐島聡について元公安トップが証言(時事通信フォト)

 鹿島建設の工場や間組本社の爆破事件などに関わったとして指名手配され、約50年にわたり逃亡を続けた東アジア反日武装戦線のメンバー・桐島聡。当人を名乗る人物が突然現れ、そして亡くなったことで、再び組織の実態がクローズアップされている。ジャーナリストの竹中明洋氏が、メンバーの取り調べに関わった元公安トップの証言とともに、桐島の逃亡劇と未遂に終わった幻の暗殺計画についてリポートする。

 * * *
 三菱重工ビル爆破事件など1970年代に起きた連続企業爆破事件で日本を震撼させた東アジア反日武装戦線のメンバーで、指名手配を受けていた桐島聡を名乗る男が1月29日、鎌倉市内の病院で死亡した。男は偽名を使って藤沢市内の土木会社に住み込みで働いていたという。

「長い潜伏生活で彼も辛かったのではないか。偽名で死にたくなかったのだろう」。かつて公安調査庁長官を務め、事件当時に東京地検公安部でこの事件を担当した緒方重威氏(89)はそう推測する。

 東アジア反日武装戦線は、海外進出する日本企業をアジア侵略に加担するものと位置づけて標的にし、1970年代に次々と爆弾テロ事件を起こした。そのうち最大のものが、1974年8月30日の三菱重工ビル爆破事件だ。東京・丸の内の三菱重工ビルに爆弾を仕掛け、8人死亡、376人負傷という甚大な被害をもたらした。12件に上る連続企業爆破事件を起こし、警視庁公安部は1975年5月に大道寺将司らメンバー8人(うち1人は逮捕時に服毒自殺)を一斉検挙した。緒方氏は当時、事件全般を検討する総括担当だった。

「警視庁が長期にわたって内偵捜査をしていたので証拠はふんだんにありました。メンバーの中には完全黙秘を貫く者もいましたが、女性メンバーから克明で真実味のある供述が取れ、取り調べが大きく進展しました」(緒方氏)

 緒方氏は犯人らの供述と物証を確認するうちに、不自然な点に気づいた。彼らは三菱重工ビルでの事件で使用した爆弾を製造したのは事件直前の8月下旬と供述していたが、大道寺の妻・あや子が事細かにつけていた帳簿を読み解くと、爆弾の材料がすべて揃ったのは8月上旬。なぜ時間が空いたのか。

 疑問が解けたのは、昭和天皇のお召し列車を狙った「虹作戦」の存在を知ってからだ。爆弾の製造日の矛盾を追及していた検事があや子を取り調べた結果、昭和天皇らを乗せた列車を荒川鉄橋で爆破しようと計画していたことが判明。8月上旬に爆弾が製造されていたのもそれに間に合わせるためだった。だがお召し列車が通過する前日の晩に爆弾を仕掛けに行くと、現場に3~4人の男がいるのを見て公安関係者だと判断。作戦を断念したという。

「虹作戦について地検公安部では徹底秘匿とされました。この年に予定されていた天皇陛下の初訪米が迫る中で、過激派による訪米阻止の動きを助長しないようにするためだったと思いますが、朝日新聞にスクープされてしまい、報告を受けていなかった地検上層部から大変なお叱りを受けたのを憶えています」(同前)

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