昨今のお笑いブームのなかでも、芸人としての稼ぎだけで食べていける者はほんの一握りだ。芸人としての月収は「1万円以下」だったと振り返る吉本興業のほりっこし(37)だが、2016年から「フィリピン住みます芸人」として活動の拠点を移すと、タガログ語のスタンダップコメディで現地の人々から愛されるようになった。10年以上フィリピンで取材歴がある水谷竹秀氏が、ほりっこしの奮闘をレポートする。(前後編の後編。前編から読む)
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ほりっこしが開いたネタ帳には、日本語でタイトルがびっしり書き込まれていた。
「日本語教える」「ロボット」「寿司」「忙しい日本人」「お辞儀」……。
その隣にはウケた度合いを示す印「◎」「○」「△」「×」がそれぞれつけられている。
「全てタガログ語のネタで、200本ぐらいあります。滑って二度とやらないものも入っています。1回だけ滑っても捨てません。伝える客層によっても異なるので、3回は試しますね」
テーマは日本に関連したものが圧倒的に多い。その理由をほりっこしはこう語る。
「フィリピン人はやっぱり日本を好きな人が多いんですよ。だから日本をテーマにすると反応がいい。日本人であるがゆえにフィリピンで失敗したこととか、フィリピン人から見た日本人のイメージをヒントにするとか。僕らが思っている日本人像とフィリピン人のそれって違うんです。例えば日本人は皆、戦争時代の旧日本軍の影響からか、ガニ股だと思われています」
このほかフィリピン人が日本に対して抱くイメージは「自殺大国」だ。
「日本人イメージあるあるです。自殺を取り扱ったネタでは『働きすぎが原因です』と説明し、今は働き手がロボットに変わっているので、ロボットの自殺が相次いでいますと伝えるとウケるんです」
スタンダップコメディと言えばやはり、政治ネタも定番だ。ほりっこしもそれほど多くはないが、ドゥテルテ前大統領をかつて取り上げたことがある。2016年6月に就任した同前大統領は、麻薬撲滅戦争で死者6000人以上を出し、米国に敵対した暴言が世界中で注目を集め、日本でも大きく話題になった。
「2本ありますが、そのうちの1本はドゥテルテを『ヤクザ』に見立てたネタだったんです。フィリピン人にとっても彼は強くて乱暴者っていうイメージがあったのでウケたんですが、これは公的な場では控えました」
やはり政治的なテーマは慎重にならざるを得ない。そうした現地の事情にも配慮し、タガログ語でフリップ芸を続ける日本のピン芸人──。ほりっこしがそんな道を選んだ背景には、紆余曲折もあった。