お隣さんに限らず真矢さんが人との出会いを大切にして、言葉をきちんと受け止める人だということがよくわかる本でもある。瀬戸内寂聴さんの「多く傷つき、多く苦しんだ人が好き」や、和食店で知り合った老紳士の「禍福は糾える縄の如し」といった言葉が本の中で紹介されている。
「聞いたときは自分が未熟で気づかなかったりもするんですけど、いい言葉って、後になってあぶり出しみたいに浮かんでくるんですよね。
今回、本を書いてみて、私は人の言葉を聞くのが好きなんだなってわかりました。人生の先輩が何を考えて生きてきたか、30代、40代、50代と、聞いた言葉が道しるべみたいに立ってるんですよね。自分という人間が見えたというより、どこでどういう風に影響を受けていまの自分になっていったんだな、ということが本を書くことでよくわかったし、自分の気に入ってるところ、そうでもないところをこの先の人生でどうしていくかも考えたりしますね」
「石の上にも三年」もいまは1年引いて2年で考えるように
宝塚を辞めて以降も順調そのものに見えるが、初めて映像の世界に入ったときはカメラが怖くなり、自宅に閉じこもっていた時期もあった。そうした時期を乗り越えて、いまも俳優として活躍する真矢さんがいる。
「『石の上にも三年』って言葉があるじゃないですか。私、意外と切り替えが早くて、30代、40代はプラス1年で4年を目安に自分の仕事を考えてきたんです。50代を過ぎ60歳になったいまは、時代の変化が早いこともあって、逆に1年引いて、2年ぐらいで考えてみるようにしています」
華やかな世界でずっと生きてきたが、「私、ふつうが好きなんですよ」と言う。
「アクティブな役や管理職のしっかりした役をやることが多いので、めちゃくちゃ前向きな人間だと思われがちですが、そうでもなくて。器用に、ぬかるみを踏まないように生きるのも何か違う気がして、たまにはぬかるみに足を踏み入れて、ふつうのありがたさを知る、みたいな方が性に合ってます。それでまた歩き出す、みたいなことでいいんじゃないかって思いますね」
本誌『女性セブン』の読者にはおなじみ、佐藤愛子さんのエッセイ『九十歳。何がめでたい』が原作の映画で、真矢さんは愛子さんの娘の響子役を演じる。
「映画の撮影のために愛子さんの本をずっと読んでたんです。もし読んでなかったら、今回の本もここまで正直に、攻め込んでなかったかもしれません(笑い)」