山口組分裂抗争 10年目の現在地
現在、六代目山口組の幹部・組員は、誰一人として命の危険を感じていない。
東京都内を活動拠点にする山口組二次団体幹部は、数年前からボディガードを連れず、単身で盛り場を歩いている。
「抗争中といえば抗争中だけどね。東京で(神戸山口組とは)出会わないし、出くわしてもご苦労さんというか、頑張ってくれと思うだけで敵とは思わない」
もちろん、どの組織にも跳ねっ返りはいるから、万が一の襲撃は用心している。そもそも暴力団である以上、平時でも枕を高くしては寝られない稼業でもある。が、トップの司忍組長や司令塔である高山若頭でさえ、のんびりした時間を過ごしているという。
高山若頭と近しい企業家は苦笑しながらこう説明する。
「ずっとボディガードがいるけど、出所当初のような緊張感はないですね。それでも警察は抗争を理由に常に尾行を付け、四六時中行動確認する。抗争に暴排運動を重ね、暴力団のシンパに圧をかける。店に通えば迷惑をかけるので贔屓にすることさえできない。危険がなくても、自由気ままには出歩けない」
山口組の行事や義理事を除けば、高山若頭の毎日は限られた知人の家を回る程度らしい。暇な時間は自宅でネットフリックスを観ているそうだ。日本最大の暴力団を指揮する者の日常は、ひどく平和で地味である。
(後編に続く)
【プロフィール】
鈴木智彦(すずき・ともひこ)/1966年北海道生まれ。フリーライター。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』など。
※週刊ポスト2024年3月29日号