全国の刑務所で工場や農場などが併設され、受刑者が作業に従事している。コロナ禍では布マスクの製作も刑務作業で行われた。加古川刑務所の受刑者ら[法務省提供](時事通信フォト)

全国の刑務所で工場や農場などが併設され、受刑者が作業に従事している。コロナ禍では布マスクの製作も刑務作業で行われた。加古川刑務所の受刑者ら[法務省提供](時事通信フォト)

「トイレに行きたいと手を挙げる」

 D氏が収容されていた刑務所はもちろんどこもタバコは禁止。そのときの話として、意外なタバコ入手ルートを説明した。平成の初めにいた刑務所では、刑務作業を行っているときがベストなタイミングだったという。「工場での作業はタバコを入手しやすいんでべ」と、タバコに火をつけながら話すD氏。「工場の仕事は刑務所といってもほぼ外注。作業に使う材料はほとんど外から入ってくる。工場が材料を仕入れた時がタバコを入手できる時だ。刑務所の外にいる仲間らにタバコを入れてくれと頼んでおくと、あれこれ手配し、材料の間にタバコを紛れ込ませてくれる。あとは作業中、材料を整理しながらポロッと出てくるタバコを拾うだけだ。今の時代でもやっている所はあるだろう」。必要なのは、誰が紛れ込ませたのかわからないようにすることだという。

「外での作業ならもっと簡単だ」とD氏。「農場での作業なら、先に刑務所から出たヤツが、深夜や早朝に畑に埋めておいてくれる。俺たちは畑作業をしながらそれを掘り返せばいい。刑務所によっては、塀越しに外から投げ込んだりもする。中にいたヤツなら、建物の構造から運動場に出る時間も知っているからな」。昭和から平成にかけて、広い農場を持つ刑務所ではこんなことが行われていたらしい。

 タバコを吸うには火が必要だ。「困るのは火。ライターは滅多なことでは手に入らない。その点、鉄工作業を行う工場は一番だ。溶接だとバーナーがあるから刑務官の目を盗んでタバコが吸える。煙が出てもわかりにくいし、ニオイも気にならない」(D氏)。炊場とよばれる調理場にも火があると思うが、「調理場だと換気扇があっても、すぐにニオイでバレる」という。黒柳氏の記事や著書によると、「室内にあるコンセントを使って火花を出す方法があるらしい」と書かれているが、もしも雑居房の中で吸えば、煙とニオイで間違いなく刑務官に発見されるという。発見されれば懲罰だ。

「その点、農場はタバコを吸いやすかった」とD氏は話す。作業中に畑のどこでタバコを吸うというのか。「トイレに行きたいと手を挙げる。タイミングは野グソ。広い農場なら、今でも野グソじゃないか。トイレの所まで戻ると遠いからな」という。

「受刑者が手をあげれば、刑務官が指をペロリとなめて、風向きを調べる。風下の方を指差されると、俺たちはそっちの方へ行って適当な場所でトイレを済ませ、そのままタバコを吸う」(D氏)。畑に埋めてもらっていたライターを掘り起こして隠し持ち、風下で火を点ける。煙やニオイは風で流れてバレないという。「ただ刑務官がタバコを吸うヤツかどうかだけは注意する。タバコを吸う刑務官だとバレないが、吸わない刑務官だと衣服などについたニオイですぐにバレる」(D氏)。ライターはまたビニール袋に入れ直し、畑に埋めて隠していたという。

 自身は一度もバレたことがないというD氏に、刑務所タバコを吸ってみたくないかと尋ねたが「そんなクサいもの吸えるか」と一笑に付された。

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