前歯にはワイヤー器具が装着された(共同通信社)
「羽生さんがチェスに本格的に取り組み始めたのは、1996年に史上初の七冠を達成してからでしたが、それから半年足らずで、棋聖位を失ってしまった。これを持ち出し、『藤井さんも羽生さんと同じ道を歩んでいる』と言う人もいる。
実際、ミスが少ないことで知られる藤井さんが、第3局で伊藤さんに敗れた際には、『中盤から終盤に入るあたりに、何か手段があったかも。そのあたりで間違えてしまったのは課題が残る』とコメントしていました。これを受けて、『チェス脳になっているから、終盤の読みが鈍くなっている』と指摘する声もあります」(前出・将棋連盟関係者)
人並み外れた集中力を持つ棋士たちは、趣味に没頭する度合いも常人とは比べものにならない。藤井も一時期趣味のパソコンにハマり、パソコンを自作したほどだ。前出の渡辺も競馬愛好家として知られ、ファンの間では、「渡辺さんが土日に競馬に割いていた時間を将棋の研究にあてていれば、全タイトルを独占できたかも」と言われたことがあった。棋士にとって息抜きは大事だが、ハマりすぎには要注意というのが定説なのだ。
歯を入れたら頭が働かなくなった
一方、「棋界のレジェンド」は藤井のスランプについて、別の可能性を指摘している。「ひふみん」の愛称でおなじみの加藤一二三九段(84才)である。
加藤が着目しているのは、最近、藤井が始めた歯列矯正。2月に藤井が『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に出演した際、「ワイヤー器具をつけている」とネットで話題になった。加藤は『週刊新潮』(3月21日号)のインタビューで《棋士にとって歯はとても大事なんです》と語った上で、
《長考に長考を重ねる私は無意識のうちに歯を食いしばっちゃう。それで歯を失ったの。20年も前の話ですよ。その後、歯を入れたんだけれども、どうにも頭が働かなくなっちゃった》
と自身の経験も重ねて、歯列矯正が勝負に影響を与える不安を口にしたのだ。
「実際、前歯が抜けた加藤さんが義歯を入れたところ連敗が続き、義歯を外したら調子が戻ったそうです。将棋は常人では到底考えられないほど脳を消費するゲーム。歯を強い力で引っ張るワイヤーが集中力をそいでいるという可能性はなきにしもあらずです」(前出・全国紙将棋担当記者)
不調の原因はわからずじまいだが、敗戦がビッグニュースになること自体が、藤井が頭一つ飛び抜けた存在であるという証だろう。「打倒、藤井」を掲げ、研鑽を積む同世代のライバルが王者の牙城を崩すのか。それとも、藤井がスランプを脱し、さらに突き放すのか。熾烈なタイトル争いはますます熱を帯びる。
※女性セブン2024年6月6日号
対藤井戦の連敗を12で止めた豊島九段
タイトル奪取を狙う伊藤七段(共同通信社)