女将は“スーパーお母さん”
自宅でパソコンソフトのプログラマーをしている男性(50代)は、通い歴が10年になるという。「美容師をしている妻の仕事終わりに、ここで待ち合わせています」と、ほろ酔い顔だ。妻は「夫と飲むのは、この店と決めているの」とホッと一息つきながら一杯。「人は、立っていると気さくになるんじゃないかな。どっかり座っているより性格がおおらかで明るくなる。そう思わない? それが角打ちのいいところですね」と満面の笑みだ。
「僕は、それほど長居はしないんだよ。お母さんの顔を見ながら仕事終わりに一杯飲んで、さてと、とどこかの居酒屋へ繰り出すパターンが多いからね。ちょっと顔出して、異業種のご常連と『最近どう?』と短く情報交換してね。サクッと景気づけに飲んで、パッと立ち去るのが、角打ちっぽさじゃない?」(前出の常連)。
この店では、常連同士で、“飯田杯”というゴルフコンペをやっている。店で、のべ1万円以上使った人に参加資格が発生するルール。女将は「うちの店は『酒飲みは家族を大事にしましょう』というのをモットーにしていて、亡くなった主人は、お客さんたちの家族のみなさんを呼んで、大人数で旅行に行ったり釣りに行ったり、よくしていたものですよ」と語る。ゴルフはその名残だという。
そのうち、40代の女性客が「そういえば、お母さんには取れたボタンをつけてもらったことがある」と言い出すと、「オレは傘を修繕してもらったぞ」(男性客)、「私は、湿布を貼ってもらった」、「僕は、荷物を預かってもらっている」だのと、次々に女将にお世話になったエピソードが飛び出す。
「私はなんでも一通りはできるのよ」と女将さん。「お母さんは水泳も得意で、バタフライも泳げるそうですよ、かっこいいです」(前出の20代女性)と女将の“スーパーお母さん”エピソードは枚挙にいとまがない。
話が盛り上がっていると、目の前の線路を3両編成の列車がゴーッと通過した。「あれに乗ってるんじゃないか?」と誰かが言って、皆が列車の窓を注視する。「この店に通う常連と目が合うんですよ。電車の中からこっちを見てるから」(先の自動車部品業)。
「ほら、来た来た」と、いつもの面子が揃ったところで今宵も乾杯だ。
乾き物をつまみに、笑顔がほころぶ客らの手にはいつもの焼酎ハイボール
「キリッとした焼酎ハイボールは、背筋を伸ばしながらも寛げるこの店にぴったりだね」(50代・製罐業)
■飯田酒店

【住所】東京都大田区矢口1-7-18
【電話】03-3758-2405
【営業時間】10~22時、日・祝定休
焼酎ハイボール220円、ビール大びん460円、コンビーフとクラッカーのセット800円、ウインナー400円
