ライフ

《ダウン症の弟の写真を掲載し「死ね」と言われたことも》作家・岸田奈美さんが明かす誹謗中傷との向き合い方「一度、相手を理解することを心がけている」

ビルの脇に立つ女性

作家・岸田奈美さんは炎上や誹謗中傷とどう向き合っているのか(撮影/五十嵐美弥)

 新作エッセイ本『国道沿いで、だいじょうぶ100回』を上梓した作家・岸田奈美さんは、“一生に一度しか起きないようなことが何度も起こってしまう”と自身で話す通り、驚きと笑いのエピソードをnoteでつづっている。そんな岸田さんは中学生の時に父親が他界。その3年後、母親が病気により車椅子生活を余儀なくされ、弟はダウン症で知的障害がある――。noteでのエッセイは多くの読者の共感を呼ぶ一方で、誹謗中傷を受けることもあるという。岸田さんはそうした声とどう向き合っているのか。

* * *

 SNSやnoteのフォロワーが多い岸田さんだけあって、記事や写真を掲載すると読者から多くのコメントが届く。ほとんどが好意的なものだが、「死ね」というメッセージが届いたことがある。

「弟の写真をnoteの記事に掲載したときに、急に『死ね』というコメントがきました。もし彼の正体を知らなかったら、きっと一生恨み続けて、会ったら竹槍で突いたるからな! と思ってしまうくらい、不安と怒りに駆られる人生になったと思うんです。

 けれど、コメントの主に連絡をとって話をしてみたら、その子には発達障害があって、本人も『障害者死ね』と言われていじめられていたそうなんです。誰かを刺すような発言は、その人の傷ついている部分や疲れている部分などから発せられていることもあると知りました」(岸田さん・以下「」同)

 有名人が炎上すると、それにかぶせるように叩いたり批判したりするコメントがあふれる。これらも見方を変えると、助けを求める声なのではないかと岸田さんは言う。

ソファに座り、話す女性

有名人の炎上の裏側にある思いとは?(撮影/五十嵐美弥)

「本当は、みんな自分の話がしたいだけなんですよ。私のエッセイの感想をたくさんいただく中で、圧倒的に多いのは『共感しました。実は私もお母さんが介護で~』とか、『岸田さんのこの記事を読んだけど、ちょっと嫌でした。なぜなら僕はお母さんとずっと一緒にいたから、家族から離れて一人暮らしをする岸田さんは薄情ではないか』とか。

 全部目を通してみると、結局はみんな自分の話がしたいんだなって。ただ、なかなか自分の話をすることはできないから、何らかのきっかけを探している。炎上したあの件を許せない!って言ってる人も、実は『自分も職場で同じ思いをしたから許せない』と思っているなど、みんな結局何かしらの発言をしたいんです。でも“私の話をしたい”って言うのはなんとなく格好悪いことのように感じてしまうから、どうにか隠すんですよ、本音を。

 だから、エッセイの感想で嫌なことを言われたりとか、予想もしなかったことを書かれたりしても、その人はその発言によって発散して、少しは救われているのだなと。私に直接向けられた言葉ではないって思うようにしています。もちろん人から嫌われたくはないですから、どこかで気にしてはいますけどね」

デジタルネイティブだからこそ分かるネットの怒り

 こういった考えにいたるきっかけは、岸田さんが小学生の頃にさかのぼる。当時の岸田さんは、友達ができないことに苦しんでいた。

「好きな漫画の話をとにかくしたくて……しかもその漫画がオトンの本棚にあった『課長島耕作』で、サラリーマンめちゃかっこいいなとか、男女の恋愛ってこういうふうにうまくいくんだとか、そういう話を脳が焼けるくらい一気に喋ってしまう子供だったんです。

 小学生の頃から、私は自分が好きだと思ったことを言葉にしないと満足できなくて。でも、みんなは違うんですよね。周りはテレビの話とか軽い雑談をしているけど、私は今で言うオタクっぽい早口しゃべりで、毎回プレゼンするような熱量。当たり前なんですけどみんな話を聞いてくれなくて……。いじめられているわけじゃないけど、なんか遊びに誘われないとか、クラスの中でややこしい存在になっていました。

 それがすごくショックで自信をなくして家で泣いているときに、オトンが急にパソコンを買ってきて、『これからはインターネットや! お前の友達はこの箱の向こうにいるから、自分を責めんでいい。友達を箱で作れ!』って言ったんです。

 インターネットのおかげで、掲示板で好きなものを好きなだけ話せる相手ができた。でもインターネットの中には無法者も多く、誰かがきつい言葉を投げるときつい言葉が返ってくる光景もあって、安心していた場所がそういうものたちに侵食されていくという経験もしました。だから、デジタルネイティブで、ネット内の不躾な怒りの感情にも慣れている部分はあると思います」

敵に寄り添うことで自分の物語にできる

 炎上に耐性はあるといえど、やっぱり見ていて苦しいときもある。岸田さんは、炎上コメントをする人こそ、日記を書くことで“話したい”という欲求を発散できるのではないかとすすめる。

関連記事

トピックス

2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
卓球混合団体W杯決勝・中国-日本/張本智和(ABACA PRESS/時事通信フォト)
《日中関係悪化がスポーツにも波及》中国の会場で大ブーイングを受けた卓球の張本智和選手 中国人選手に一矢報いた“鬼気迫るプレー”はなぜ実現できたのか?臨床心理士がメンタルを分析
NEWSポストセブン
数年前から表舞台に姿を現わさないことが増えた習近平・国家主席(写真/AFLO)
執拗に日本への攻撃を繰り返す中国、裏にあるのは習近平・国家主席の“焦り”か 健康不安説が指摘されるなか囁かれる「台湾有事」前倒し説
週刊ポスト
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン
パーキンソン病であることを公表した美川憲一
《美川憲一が車イスから自ら降り立ち…》12月の復帰ステージは完売、「洞不全症候群」「パーキンソン病」で活動休止中も復帰コンサートに懸ける“特別な想い”【ファンは復帰を待望】 
NEWSポストセブン
「交際関係とコーチ契約を解消する」と発表した都玲華(Getty Images)
女子ゴルフ・都玲華、30歳差コーチとの“禁断愛”に両親は複雑な思いか “さくらパパ”横峯良郎氏は「痛いほどわかる」「娘がこんなことになったらと考えると…」
週刊ポスト
話題を呼んだ「金ピカ辰己」(時事通信フォト)
《オファーが来ない…楽天・辰己涼介の厳しいFA戦線》他球団が二の足を踏む「球場外の立ち振る舞い」「海外志向」 YouTuber妻は献身サポート
NEWSポストセブン
海外セレブも愛用するアスレジャースタイル(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
「誰もが持っているものだから恥ずかしいとか思いません」日本の学生にも普及する“カタチが丸わかり”なアスレジャー オフィスでは? マナー講師が注意喚起「職種やTPOに合わせて」
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン