トーナメントの一発勝負の難しさ

 伊藤叡王とのリターンマッチへの道のりは、どのような困難を伴うのか。松本氏が続ける。

「羽生九段のケースを振り返ってもわかりますが、防衛を続けるのも大変ですが、挑戦権を獲得するのも大変なんです。羽生九段は同世代だけでも、森内九段、佐藤康光九段、郷田真隆九段、藤井猛九段、丸山忠久九段といった、タイトルを何度も取るほどに強い棋士が多く存在していた。それだけ競争が激しかったんです。もちろん羽生九段が周囲のレベルを引き上げたという話ですが、そうしたなかで羽生九段でも挑戦権を獲得して全冠に戻ることはできなかった。

 藤井七冠も周囲のレベルを引き上げている。それは伊藤叡王の躍進を見てもわかりますし、他の棋士のレベルも上がっている。そうした意味では、叡王への挑戦権獲得が最大の難関かもしれません。今回はタイトル戦で初めて敗れるかたちになりましたが、番勝負は実力が反映されるので、5番より7番といった具合に、対局数が多いほど強い棋士が優利になる」

 しかし、トーナメントの一発勝負では、そうはいかないわけだ。

「史上空前の通算勝率8割3分台を誇る藤井七冠ですが、それでも6回に1回は負けていることになります。次の叡王戦で藤井七冠はシードでベスト16から始まりますが、それにしても4連勝しないと挑戦権が得られない。一局ずつの勝負で、そのたびに振り駒で先手番を決める。そこで若干不利が生じることもある。叡王戦の本戦トーナメントは例年、年明けから始まりますが、ここを勝ち抜くだけでも、そう簡単なことではありません。

 八冠を独占するまでの道のりでも、もっとも大変だったのは最後に残った王座戦の挑戦権を獲得するところでした。2回戦では中堅クラスの村田顕弘六段に秘策『新村田システム』をぶつけられました。藤井七冠は苦戦に陥り、ほとんど負けというところにまで追い込まれています。現役棋士であれば、一番勝負で藤井七冠に勝つ可能性は、誰にでもあります。トップクラスとなれば、さらにその可能性は高まります。挑戦者決定戦の豊島将之九段は2023年度の名局賞に選ばれるほどの名勝負で、それも最終盤まで、どちらが勝つのかわかりませんでした」(松本氏)

 その困難を乗り越えて、1年後に再びライバル対決が見られるのか。そうなれば、将棋界が最初の八冠独占時以上の盛り上がりになることは必至だ。

※週刊ポスト2024年7月12日号

関連記事

トピックス

高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年、第27回参議委員議員選挙で使用した日本維新の会のポスター(時事通信フォト)
《本当に許せません》維新議員の”国保逃れ”疑惑で「日本維新の会」に広がる怒りの声「身を切る改革って自分たちの身じゃなかったってこと」
NEWSポストセブン
防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
《浜松・ガールズバー店員2人刺殺》「『お父さん、すみません』と泣いて土下座して…」被害者・竹内朋香さんの夫が振り返る“両手ナイフ男”の凶行からの壮絶な半年間
NEWSポストセブン
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《広陵高校暴力問題》いまだ校長、前監督からの謝罪はなく被害生徒の父は「同じような事件の再発」を危惧 第三者委の調査はこれからで学校側は「個別の質問には対応しない」と回答
NEWSポストセブン
ドジャース・山本由伸投手(TikTokより)
《好みのタイプは年上モデル》ドジャース・山本由伸の多忙なオフに…Nikiとの関係は終了も現在も続く“友人関係”
NEWSポストセブン
齋藤元彦・兵庫県知事と、名誉毀損罪で起訴された「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志被告(時事通信フォト)
NHK党・立花孝志被告「相次ぐ刑事告訴」でもまだまだ“信奉者”がいるのはなぜ…? 「この世の闇を照らしてくれる」との声も
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真
《高田馬場・女性ライバー刺殺》「僕も殺されるんじゃないかと…」最上あいさんの元婚約者が死を乗り越え“山手線1周配信”…推し活で横行する「闇投げ銭」に警鐘
NEWSポストセブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン